日本のヒップホップの未来
- いとうせいこう
- 今って、すごいAI技術とかが発達してるでしょ?だから、簡単に他言語でもスマホとかで理解することが出来る。そういう風に、『大まかなことは全部分かる』っていう社会になってくれるといいな、と思ってるんですよ。僕が今、新曲を書いたとしたらそれが韓国人にもイラク人にもアメリカ人にも分かってほしい。僕にとっては“ラップ共和国”みたいに見えてるわけ。だから、ヨルダンの子がラップしてるようなことも、大体は分かる。そういう風になるんだよ、もうすぐ。誰かがフリースタイルやってたとしても、スマホをかざせば内容が分かるようになる。この変化によって、僕たちのようにヒップホップが好きな人間同士で何かが分かり合えるようになってほしいし、なれると思うし、そうしなきゃいけないと思ってる。ヒップホップにおいて一番大きな壁だったモノ(言語)が、技術で簡単に取り払われるんじゃないか?っていう、そういうことを考えてますね
- SKY-HI
- 確かに、言語の壁はそういう形で崩れ始めてますよね。ヒップホップ云々とは別として、例えば韓国人のアーティストとかが世界で1位を獲ったりするじゃないですか?韓国語の歌で。ラップでもKOHHが参加したキース・エイプ“It G Ma”がワールド・ヒットになったり。そういったものを見ると、『日本でラッパーとして大成する』や『ワールド・ヒットを狙う』みたいなゴールって、多分若い子たちにとってはそんなに遠い夢だと思ってない気がするんですよね。アジア人が世界で活躍している例がどんどん増えてきてるし、そういう人が日本人でもどんどん増えていくと思う。やっぱり、世界的なアジア・ブームの中で日本から世界的なスターが出て来ないのは悔しい。そういったスターが出て来たら、もしそのときに日本が恵まれてない状況であればあるほど、その状況を歌にした強い曲が出来るだろうし、そうなったときに追い詰められた人が作った歌の強さがあれば、更に世界中の人に届いて一発逆転のチャンスになる。逆に、もしそのラッパーが恵まれた状況だとしたら、副業としてラップをやってもいいと思うし、『恵まれてて仕事も出来て、ラップも楽しいからやってる』的な娯楽のひとつとしてラップが発達すると思う。だから、どっちの状況に転んだとしても夢しかないな、って思います
- いとうせいこう
- だから、とにかくカッコ良いモノを作ればいいんですよ(笑)!
- SKY-HI
- 今は若い子でもラップ上手い子がホントに多いし、そういった人たちの間で更に研鑽が起こって、ヤバいラップがたくさん出て来そうですね
- いとうせいこう
- 日本のヒップホップがまだ世界的な流れになってない理由はひとつ、『俺は世界を向いてるんだ』っていう気持ちになってないからだと思うよ。『世界の人たちに分かってほしいんだ。だから日本語で歌ってるんだ』って思えばいい。その気持ちがないと内向きになって内閉的なことを歌っちゃうし、『自分たちが一番だ』っていう歌を自分たちだけに向けて歌って自分たちだけで消費してしまうようなことになってしまう
- SKY-HI
- だから、“精神的鎖国”から“気持ちを開国”すればいいんですよね(笑)
- いとうせいこう
- そうそう。今こそ、ね
- SKY-HI
- でも、早めに『開いた』人の方が楽しくなるっていうのは保証できますよね。結果、ナショナリズムに走るラップの人が出て来るかもしれないし、すごくオープンなモノだったりコンシャスなモノになるかもしれない。どうなるかは分からないけど、世界に向けて『開いた』方が、表現としても人間生活としても楽しくなるのは確かだと思います
Text by 伊藤雄介(Amebreak)