SKY-HI

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SPECIAL

「FREE TOKYO」リリース記念対談 / SKY-HIといとうせいこうが語る “ヒップホップ”

ポップ・ミュージックにとっての“娯楽性”と“社会性”

SKY-HI
アフロ・アメリカンが自分たちの権利のために歌い出す以前に、アメリカではフォーク・ソングの人たちが政治だったりに対してキチンと歌っていたんだよね。その後にマーヴィン・ゲイが“What's Going On”なんて歌ってて、『デモに行こう』とか平気で歌ってるわけですよ。で、それが僕にとっては一番カッコ良い娯楽なんだ。だって、マーヴィン・ゲイが『自分たちの主張を掲げるんだ』って歌ってるのに、何故か衣装は胸の部分が開いてるし、それを聴いてる白人の女性がキャー!って叫んでるんだよね。だから、社会のことだからこわばって歌うんじゃなくて、社会について踊らせながら歌ってしまう、ジンジンに感じて失神してしまうぐらいカッコ良く歌うモノがロックだったしパンクだったし、ヒップホップだったし、それが“レベル・ミュージック(反抗の音楽)”ってモノだった。で、そういったことを自分ならどうするか?って考えたら、『そうか、俺はセクシー派じゃないから“笑い”か!』と思ったし、それはハリウッド映画でもみんなやってることだよね。コメディの力。ハリウッドで言うと、“#metoo”の流れからも分かるけど、これまでは『あそこは資本主義の権化だ』って言われてたぐらいのところにいた人たちこそが、いまや社会に向けて発信してる。だから僕は、今の時代は娯楽と国家主義が戦う時代なんだな、って思ってる。そんなことが出来る娯楽を、一個でいいからこの社会に落として死にたいな、って。『やっぱそっちの方がカッコ良いよ!』って思うわけですよ。で、そういうことはこの人(SKY-HI)がやってるからね
SKY-HI
(照れながら)頑張りたいですね
いとうせいこう
僕なんてここ何ヶ月か、世の中についていろんなことを考えすぎて、朝起きるとき苦しいですよ。『こんなんじゃダメだな……』みたいに、気持ちが落ち込んでしまう。でも、そういうときに日高君がやってることとかにものすごく励まされてるんだ
SKY-HI
あらー、そんなこと言って頂けるとは(笑)
いとうせいこう
いや、よく頑張ってるな!って。もっと上手に逃げながら頑張り続けてほしい。『こんなに酷い暴言が世の中に溢れてるのにみんなガマンしなきゃいけないなんて、そんなことはおかしいだろ』って思いながらも、だんだん下を向くようになってきちゃってるから。でも、そんなときこそ娯楽って頑張れるんだよ(笑)
SKY-HI
それはすごく思います。人を苦しませる原因に気付いた人がより苦しめられてしまうような状況が、日本だと構造的に出来てしまっている。でも、気付いちゃったら気付かないフリをするのってめちゃくちゃ難しいですよね。そういう人たちを、年齢/性別/国籍も問わず救いたいな、と思います
いとうせいこう
声を上げる人がものすごいバックラッシュに遭って痛めつけられるんだよね。そんな社会は、少なくともヒップホップにとってあってはならないよ(笑)
SKY-HI
単純に、『生きてて楽しいな』って思えた方が絶対にいいわけですからね。だから、『社会にコミットした作品や発言』云々で言われたとしても、無条件に楽しいと思わせられるモノを作ることは絶対に諦めたくないですね。さっき話した“普通教”的な娯楽とは一線を画した表現を頑張りたいな、って
いとうせいこう
ということは、日高君を更に“娯楽サイボーグ”にするプロジェクトが動き出すよ(笑)。出て来ただけでみんな失神しそうになるけど、歌ってる内容を聴いたらスゲェことを歌ってる、みたいな
SKY-HI
あ、でもそれって、マイケル・ジャクソンがやってたことに近いですよね(笑)
いとうせいこう
そうですよ。“Beat It”ですよ
SKY-HI
あの曲、『暴力は止めろ』って歌ですもんね
いとうせいこう
『自分たちのダンステクニックやカッコ良さで競おうぜ』ってストリートの人たちに呼びかけたんだよね
SKY-HI
『マッチョになんかなりたくない』って、マチズモ全盛の当時のアメリカで歌ってたのって、相当凄いですよね
いとうせいこう
凄いよね。で、歌ってる本人はああいう格好してる、っていうさ(笑)