

ラップが持つ“コンシャスネス”
- いとうせいこう
- 日高君は、すごく意識的に様々なテーマに挑戦してるし、ラップの載せ方といった細かい技術を競うこともやってるよね。そういった意味で、それこそコンシャス(意識的)なことをやってるじゃない?でも、それってすごく大変だよね(笑)?
- SKY-HI
- 大変ではありますね
- いとうせいこう
- 『そんなこと考えなくてもいいでしょ!』みたいな流れって、流行るモノの中にはあるわけで。『何でそんなにマジメにやってるんだ?』とか
- SKY-HI
- そうなんですよね。いろいろ考えたんですけど、こういったスタンスはやっぱりカッコ良いと思うし、自分はいろんな要因が複合した結果、『見えたモノに対して見えてないフリが出来ない』ってだけだったと思います。技術面においては、アイドル・グループをやってたという“出自”があるので、そういう目で見られたときに分かりやすい技術 -- ギターで言うと速弾きのような -- 何も知らない人が見たときに『上手だ』ということが分かりやすいスキルを持つ必要があった。(社会的に)コンシャスな視点も、『そんなモノ関係ねぇ!』って言い切れる天然な天才みたいな人だったらそういうことをやればいいと思うし、全ミュージシャンがコンシャスになる必要もないと思うんです。だけど、自分にとってはこっちの方が向いてる、ってだけです。いろんなラッパーやミュージシャンが好きですけど、実際に自分でも曲を作っていく過程でめぐり逢ったのがこのスタンスだった。だから、大変っちゃ大変なんですけど……しょうがない(笑)。だって、人間として生きるのって大変じゃないですか?
- いとうせいこう
- まあ、そうだねえ
- SKY-HI
- 『男性/女性として生きるのは大変』とか、例えば自分がゲイだったら『ゲイとして生きていくのって大変だわ』って思ってたと思うんですけど、2018年現在、こういう人間/ラッパーとして生まれてきてしまった以上、ちょっと大変だけどしょうがないかな、みたいな
- いとうせいこう
- でも、それをやめようとはしないよね。もしかしたら、日高君がそういったアプローチじゃなくてもっとパーティ・ラップ的なことばっかりやってたら、日高君の内面の葛藤とかは気付かれないかもしれない。だけど、『俺はそういうわけにはいかないんだ』って社会のことについて歌ったりするじゃない。『おー、スゲェな』って思うんだよね。立場的な意味でもそうだし、若い世代の中でもそういうことをするというのは、なかなか大変なことだと思う
- SKY-HI
- 『葛藤が多い立場にあった』というのは、捉え方によっては幸せなことだったかもしれない、と思います。ステージ上や制作において“裸”にならざるを得ない状況というのがいっぱいあったし、剥き出しでいかないと表現者として死ぬしかないという状況もいくつかあった。それこそ昔、MCバトルに出てたときもそうだったと思いますし。コンシャス/社会的なテーマに触れるときは、そういった部分での“ブレーキ”が壊れてないと出来ないと思います。『こういうことを書いたらこういうリアクションが来てヤバイんじゃないか?誰かに怒られるんじゃないか?』みたいなブレーキが、割と早い段階で壊れてた(笑)
- いとうせいこう
- ハハハ。それは素晴らしいことだけど、なかなか出来ることじゃないよ
- SKY-HI
- でも、若い頃に葛藤とか苦しみを経験したアメリカのラッパーとかは、もっと早い段階でそういったことに意識的/自覚的になれてたりもすると思います。僕の場合は、それが芸能と音楽だったり、人と人の間の軋轢だったりをたくさん経験した結果、意識的になれたんだと思います
- いとうせいこう
- でも、同じ条件下に置かれた人の誰もがその選択をするとは思えない
- SKY-HI
- それには一個、明確な答えがあります。そういう葛藤を感じた頃にヒップホップに救われた、というのがありますね。ヒップホップだったりラップのメソッドや考え方、ヒップホップのマイナスをプラスに変えようとする精神性に救われた結果、吐き出す方法として自分もこういう風になった、ということだと思います。だから、ヒップホップが好きじゃなかったらもっと葛藤を溜め込んでたかもしれないし、違う吐き方をしてたかもしれないです
- いとうせいこう
- これがヒップホップじゃなくてパンクだったらどうだったんだろうね?
- SKY-HI
- どうだったんでしょうね。それは分からないですけど、僕が生きてきた時代では最もパンク的なモノがヒップホップだった。そう言うとパンクの人たちに怒られそうだけど(笑)
- いとうせいこう
- でも、それはいいんじゃない?そう感じるのは当然だよ
- SKY-HI
- 自分の心の弱い部分に直接来てくれたモノがヒップホップだったんです
- いとうせいこう
- パンクだと、歪んだギターを弾かなくちゃいけなかったり、あまり上手に弾いちゃいけない、みたいな美学のようなモノがあるけど、ヒップホップ的な様式美の良さっていうのは、『音楽じゃねぇんだよこんなモン!』って言う人もいる一方、すごい上手なヤツも褒められることなんだよね。で、それはパンクだと出来ないんだ。いきなりフュージョンみたいに弾いて『あのパンクス、ギター上手いな』みたいには言われないもん
- SKY-HI
- パンクのギタリストでも『実は上手い』みたいな人、いませんか?実際はすごい練習しててテクニカルな人
- いとうせいこう
- そうだよね。でも、実際に人前で速弾きとかはしないと思う。ヒップホップは、そういうところも“見世物性”に繋がってると思う。つまり、『上手いこともアリ』っていう。DJのスクラッチが初期からその方向を持ってた。だから、日高君にとってはヒップホップが音楽も芸能も含められているモノだからこそ、良かったということはあるかもしれない
- SKY-HI
- あるかもしれないです。やっぱり、パーティだったりクラブって楽しいですしね(笑)
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