菅雄嗣は「絵画の成立の仕方」に関心を寄せ、数年ごとに描出の変遷こそありつつも、「境界」を越えて描くという行為のもと、一貫して絵画制作を続けている。 最初に本作の描画方法について触れておきたい。一つの画面を直線で二分割し、片側は鏡面のようなウレタン塗装、もう一方は薄い下塗りを施したキャンバスと、異なる下地を作る。ウレタン塗装側に絵の具を均一に載せ、それを削いで描出し、削ぎ取った絵の具でキャンバスに描いていく。削り取ることで下地の冷たい輝きが現れ、緊張感あるストロークに艶を与えている。通常油絵で光を表現する際、明るい絵の具を上に重ねていくのに対し、この場合のハイライトはいずれも最下層である。 光を生むために削り取られた絵の具は境界線を越えて影となる。真逆の作業によって質感の違いを生み出し、分断された不安定な平面上に、揺るぎのない線が確固とした世界を立体的に構築しイメージは両立させられている。 また、近年では「境界」をキーワードに インターネット上でミーム化され一部で流行していた、人が不在になった空間の画像を現実と仮想が入り混じった幻想的なイメージに変える「リミナルスペース」に影響を受け、 展示室内を模して作られたCGモデリングをプロジェクションマッピングし、空間を拡張させ、現実と仮想の境界を曖昧にさせるようなインスタレーションも行っている。
菅 雄嗣_CV