スマートフォンの画面を指でスクロールしていると、ときどき月の写真が流れてくる。立ち止まって空を見上げたわけではなくても、誰かが撮影した月を見ることで、その夜のことを知ったような気持ちになる。 満月の夜であれば、自分が見ていなかったとしても、SNSを開けば誰かが撮影した月を見ることができる。人々がそれを共有することで、その夜が満月であったことを知る。私たちは月そのものというよりも、月を通して「その夜」を感じているのかもしれない。 この展覧会で考えたいのは、月が見え「る」夜ではなく、月の見え「ない」夜である。もっとも、ここで月そのものが主題なのではない。月は、多くの人に共有されるものと、共有されないものについて考えるための媒介として置かれている。 月が見える夜には、共有可能な風景がある。同じ月を見ているという感覚があり、それはSNSやメディアによって拡張される。しかし月の見えない夜には、そのような回路は存在しない。誰にも見られなかった夜かもしれないし、自分だけが覚えている夜かもしれない。 私たちは記憶について語ることはできる。しかし、その記憶を他者と完全に交換することはできない。同じ出来事を経験していたとしても、その経験のあり方は決して一致しない。 記憶を共有するのではなく、むしろ記憶を閉じ込めるための展覧会は可能なのだろうか。他者に向かって開かれるのではなく、それぞれの内側に残り続けるものをどのように空間のなかに置くことができるのだろうか。 月というありふれた存在を媒介にしながら、多くの人によって見られることのない夜を想像すること。本展は、そのための試みである。
【AWASE gallery】
AWASE galleryは、建築家・松井陸とアーティスト・山田康平によって運営される、東京・新宿を拠点とするアーティストランスペースです。アートスペース「nudge field」を基盤に、美術の個展やグループ展を中心に展開しつつ、建築やメディアカルチャーなど異分野との交差によって、新たな表現の可能性を探ります。年間プログラムは山田が監修し、松井が建築的視点を加えることで、美術と建築の協働プロジェクトや、建築技術を取り入れた展示、美術家による空間への介入など、領域横断的な試みを実施。建築とアートの融合を軸に、これまでにない展示体験を提案します。
AWASE gallery is an artist-run space based in Shinjuku, Tokyo, founded by architect Riku Matsui and artist Kohei Yamada. Located in the art hub nudge field, the gallery focuses on solo and group exhibitions, while exploring new forms of expression through the intersection of visual art, architecture, and media culture.
With annual programming curated by Yamada and architectural perspectives brought in by Matsui, AWASE gallery presents interdisciplinary projects where artists and architects collaborate.
By integrating architectural elements into artworks and engaging artists in spatial experimentation, the gallery aims to offer innovative exhibition experiences and expand the possibilities of creative expression.