能條雅由は、1989 年に生まれ、2015 年に京都造形芸術大学大学院修士課程を日本画専攻で修 了した気鋭のアーティストで、コンテンポラリーな表現と日本美術の伝統としての時の流れの 表現を融合させるというユニークな取り組みを行っています。 大学在学中から、社会における記憶(集団的記憶)に関心をもち、鑑賞者にそれを想起させる ことを志向し、創作から恣意性を取り去るために、写真を取り入れたミクストメディアによる 表現方法を選び、記憶のイメージを構成する最小単位として、色とフォルムを写真から抽出し ました。 そして、時の経過の表現として尾形光琳の紅白梅図屏風が描いた銀箔を用いた川の流れに閃き を感じ、写真から抽出した色彩の印象をもとにベースとなるパネルにマーブリングを施し、そ の上に銀箔を用いたシルクスクリーンで写真のイメージを重ねます。こうしてできた作品の鑑 賞者はミラージュ/佈気楼のような、遥かなる記憶の残像を追い求めることとなります。 17 世紀の江戸時代に活躍した尾形光琳の川の流れの表現は伝統的な文様となりました。また銀 は時の経過に従い酸化し色を変化させることから、時の流れの暗喩となっています。尾形光琳 の川の流れのモチーフはヨーロッパに渡り、19世紀末のアールヌーボーなど新しい芸術活動 に影響を与え、クリムトの作品「接吻」にもそのモチーフを見ることができます。
能條雅由_CV