MASH本人による解説

「若者についてのノーツ」

心から勝手に湧き出てきた歌詞やメロディに何が言えるだろうか。
音楽って響くか響かないだけではないのか。
その答えすらはっきり分からないから今からさっそく振り返ってみます。自ら。

 

「夢追いの地図をひろげて」

さよならにはいつだって新しい始まりが月と太陽のように寄り添う。
詩人の寺山修司の好きな言葉で「さよならだけが人生さ」というのがある。最初僕はその言葉を知った時なんて哀しい言葉を好むのだろうと感じた。しかし綺麗事しか好まない魂じゃ新しい夜明けの歌は聴こえないんじゃないか。
僕はアルバムの一曲目が始まった瞬間「さよなら」から始まるアルバムを聴いたことがない。
新しい始まりを歌うのにこれほど冒険的なことはない。
トラックは「僕がいた」なども一緒に作ってるMaster Elements。
生のストリングスアレンジ等うまくやってもらえたと思う。
自由にとりつかれてる時点でそれほど不自由なことはない。
前作に対する、つまり昨日までの表現に対する素直な言葉が書けたと思う

 

「青年は荒野をめざす」

この曲も書きだした時からアルバムの2曲目というのを決めていた。
まだ真っ白な地図をひろげて主人公はこの先何処に向かうのか。
僕のキモチを歌の中の青年に乗せて代弁してもらった。
いつの時代でも青年は若さを武器に敢えていばらの道にしか咲いてない花、つまり荒野に咲く一輪の花を探す。
トラックはオール打ち込み。RIMAZIという名古屋の僕が一番信頼を寄せる若手。どんな打ち込みにするかゼロから話し合って世界を作り上げて行った。BPMを遅くしてもらいラップは倍速で言葉を投げ込んだ。
タイトルはご存知な方もいるかもしれないが五木寛之さんの不朽の名作「青年は荒野をめざす」へのオマージュ。五木さんのこの本は今からもう四十年前くらいの作品だというのにまだ再版を繰り返してる。
僕もこの本にそれ以降の日本人作家に及ぼした影響の影を見つけた。
戦後以降の日本に流れ着いたジャズが日本人にもプレイヤーを生み海を渡る話しなのだけど、これは若い青年への冒険のススメになっている。
僕もこの歌を通して表現者としてのありのまま葛藤をみんなに投げ掛けることが出来たら。

 

「世界が終わる」

世界が終わるときに僕は何をしているのだろう。
ぼんやりと浮かんだ物語をカタチにしてすぐビートに乗せた。
一時間くらいで完成した。こういった物語を書くのは苦手ではない。
怪獣が出てきたり地球が終わりそうになってたり自分のティーンだった頃に読んだSF漫画だったりの影響が
もろに出た歌だと思う。
一番最後に本当は一言重要な歌詞があったんだけど敢えてミュートしてもらった。
トラックはMaster Elements。重いはずのテーマに敢えて明るいゴスペルのコード感。
世界の終わりには賛美歌の雰囲気が似合う。

 

「BOB MARLEYのポスター」

ラブソング。
アレンジもかなりシンプルにしてもらった。
僕の周りには昔から部屋にBOB MARLEYのポスターを貼っている人が多い。
僕らの好みって色んな所に出てくる。
ファッションと同様に好きな映画だったり音楽だったり。
僕も昔からBOB MARLEYの渇いた声と体制にむけての攻撃的かつ優しさあふれるメッセージが好きで時々急に思い出して聴きたくなる。
若いリスナーがもし僕のアルバムを聴いてくれるなら「BOB MARLEY」を知るきっかけにもなるんじゃないだろうか。
でも日常生活での僕とBOB MARLEYの距離間はきっとこういうことなんだろう。

 

「おめでとう」

幼なじみに書いた歌。結婚式で友人代表の挨拶にメロディを乗せたらこうなりました。
幼なじみにとったら永遠の歌になるわけだからホントに表現に気を使い大切に書いた。

 

「青春」

必要な音だけのシンプルなバンドサウンドに歌を書いた。
青春って振り返ったらずっとそこにチラチラと燃え立つ。 あの時のなんとも言えない感情の揺れを掴んでティーンの気持ちに戻って歌いあげた。
蝉の鳴き声や坂道で自転車をこいでて汗が湧き出る雰囲気が曲自体から出てればいい。
ミックスもドラムとベースが目立つような配置にこだわった。
最後のサビの「鍵は開けておくよ」ってフレーズがレコーディングのラストテイクでふと出てきたときは自分の発想以上の何か不思議な力を感じた。

 

「七月六日」

七夕の日にアルバムを出せるって聴いたのでなんとなく書き出した。
知り合いのギターリストの夏樹がループを弾いてくれた。
ほぼワンループのコード間にシンプルにみんなにイメージできる言葉を探した。
教室の隅に飾られた短冊に書き込んだ夢。
大人になった僕らはこの歌を聞いて何を思うだろう。
ラップと演奏が一気に盛り上がるところもあえてストリングスに頼らず一番シンプルな演奏と歌で表現した。
最後の盛り上がるとこのリリックはかなり迷った。
書いても書いても納得に至らない。
レコーディング前日に日帰りで京都にいった。
大袈裟に言えば「呼ばれてる」気がした。
三十三間堂と嵐山にしかいけなかったが帰りの夜の高速で歌詞が湧いて出た。
「てるてる坊主」って言葉と「祈りのほかに何があるというの」というラインが出た時に完成を感じた。
そして「あした晴れるかな」という当たり前の場所に辿り着いた。日本人ならではのテーマだと思います。
最近も雨の朝、近所を歩くとあの頃の僕らがでっかい傘をさして大きなランドセルを背負って一列で歩いてた。

 

「カラス」

どうしようもない不良だったあいつに捧げるバラード。
トラックはRIMAZI。まずワンループのギターのコードをもらいシンプルに歌詞を乗せてからピアニストの人に必要な音色を足してもらった。

 

「助手席に乗りこめよgirl〜星降る夜に〜」

ロマンチックに恋人をデートに誘う歌。
後半のギターソロは夏樹がほんとかっこよく弾いてくれた。
アイズレーみたいなセクシーな雰囲気を出してくれた。ビートはRIMAZI。
たまたまラジオで聴いた洋楽ですごく好きなビート感の曲が流れててそれを記憶だけを頼りに朧げにRIMAZIに伝えた。
僕のラップ史上最速の速さにも拘わらず言葉をしっかり耳で追えるのを目標に、そして大人ならではの余裕も出せたらなと書き上げた。こういったテーマはメインストリームを目指したラップ歌手ならだれもが書こうとする。だからこそ表現力が試される。
あえてワンバースのみで表現できるラップにした。
真夏の夜に海を目指しながら夜風に紛れて恋人なんかと聴いてほしい。

 

「so long」

メッセージをこめた。
わざとらしいサビなんかなくてもフックは作れることに気がついた。ビートはMaster Elements。

 

「月に吠える」

アカペラでサビのメロディと歌詞だけをまずレコーディングした。
それからRIMAZIにピアノでサビ以外のコードを書いてもらいそれにあわせて散文詩的フリースタイルで歌詞を書いた。
場面、場面を思わせる表現をばらばらに繋げても一曲になるという新たなことに気がついた。
用は言いたいことに芯と道筋を立てれば音楽は響く。あんまり考えないで勝手に出てきたりした言葉を大切にした。
東京のおっきなスタジオでグランドピアノとバイオリンとマイクで一発録音した。あえて臨場感をだすのに音程やリズム感も録ったそのままにした。
アルバムの最後だということで一曲目に地図をひろげて歩き出した若者の行き先を、たどり着く場所を歌の中に探した。

アレンジはMaster Elements。バースのコード感はRIMAZI。
「若者」を作り上げる上で最重要な二人のトラックメーカーにタッグを組んでもらい最後のサウンドメイクを締めてもらった。

 

「すべてを振り返って」

頑張れって言葉を使わなくても頑張れって言える歌があるんじゃないか。
一曲一曲に人生観そのものを詰め込みたくてやってた気がする。
でもそれは表現を提示する側からの勝手なエゴイズムの話。しかしそれを聴いた人が感動したりハートに引っかき傷を一つでも残せたりしたのなら僕の歌も永遠に近い47分を手に入れることが出来るんじゃないか。

「若者」には僕の幼少期から今日までにゆっくりと作られてきたあらゆる好みやキモチが作品の世界観に思いっきり詰め込まれてる。

自信をもって歌っていきたい。

次の場所に向かって。
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