“犬を放ったの誰だ!?ウオッフ!ウォッフ!ウォッフ!!”

バハ・メンのニュー・アルバム『Who Let The Dogs Out』が届いた。リード・シンガーの一声で、彼等がこの夏最もエキサイティングなヒット・アンセムを届けてくれたことは明白だ。どこからともなく現れたかのように見えるバハ・メン。だがヒット・メーカーのステータスを得るまでの道のりは、長く波乱の多いものだった。

バハ・メンは彼等の故国、バハマの土着のリズム‘ジャンカヌー’の長年の支持者だ。もともと西アフリカから伝わったこのリズム、クリスマスの翌朝に行われるバハマのジャンカヌー・パレードの際、伝統的行事としてヤギ革ドラムとカウベルで演奏される。それは夜中3時に始まり、夜明けまで続く盛大なパレードだ。バハ・メンはレコーディングを通して、ジャンカヌーに新たな道を開いた。バンドの創立メンバー、イザイア・テイラーは自らのヴィジョンをこう語る。『僕らのお祭りの楽器を、ベース、ドラム、ギターなどのステージ用の楽器と合わせてみたい、と思ったんだ。僕はジャンカヌー・ミュージックを世界へ紹介するために、これらすべてをブレンドしたかったんだ』

ジャンカヌーという言葉は、他の国ではまだ聞き慣れないかも知れないが、バハマの人々にとっては深い歴史に基づいている。『ずいぶん昔、奴隷制度の時代にジョン・カヌーという男がいたんだ。彼は僕らの島で起きた反乱のリーダーで、当時クリスマスの時期になると、彼らは奴隷たちに一、二度の休みを与えていた。奴隷たちにとって唯一、その時だけアフリカからの音楽を演奏することが人前で許されたんだよ。ジョン・カヌーは、奴隷にドラムを使って互いにコミュニケイトできる機会を作り、その年これが反乱成功の発端となった。今日、僕らはこのイベントを記念して、ジャンカヌーのリズムで町をパレードし祝うってわけさ』とテイラーは説明する。ジャンカヌーは、バハ・メン・サウンドの基礎となっている。けれどこの他にも幾つかの基本的要素がそのサウンドに彩りを添えている。『アフリカ、ポップ、R&B、レゲエ、スカが少しずつ。これらすべてがジャンカヌーと混ざり合っているんだ』とテイラーは言う。

バハ・メンの中心的ミュージシャン達が、10年に渡っていろいろなグループ構成で演奏してきた中、彼等は昨年3人の新しいリード・シンガーを追加し、劇的な若返りを見せた。この3人がラップ、ヒップホップ、ジャマイカ・ダンスホールといった影響を取り入れたのだ。『僕ら若者にとってバハ・メンは子供の頃からの憧れだったんだ。バハマでバハ・メンから声がかかるっていうのは、アメリカの子供がニューヨーク・ヤンキーズから指名されたみたいなもんさ。夢が叶ったようなもんなんだ』と話すのは、シングル「Dogs」でスピード・ラップがパワー全開のマーヴィン・プロスパー22才。

『僕らはバハ・メンのサウンドにたくさんの新しい要素を加えている』と20才のヴォーカリストのリック・ケアリー。彼はバハ・メンのギタリスト、パット・ケアリーの息子で、「Dogs」のシングルではリードを歌っている。『バハマの子供たちはジャンカヌーが大好きなんだ。けど僕らは、D'AngeloからJuvenilleまで幅広く聴くし、それにここのラジオはBounty KillerやCapletonのような多くのホットなジャマイカ・アーティストをかけるんだ。つまり、僕らがやってることは、バハ・メンのサウンドに僕らの全影響を注ぎ込むこと。本当に新しい、オリジナルなもの作ることなんだ』

『僕の叔父は、バハ・メンのオリジナル・リード・シンガーだったんだよ』と言うのは19才のヴォーカリスト、オメリット・ヒールド。『僕はいつもこのグループを尊敬してた。参加できてすごく光栄だよ。こんなに早くヒット・レコードを出せるなんて、僕の人生で一番ワイルドな経験だね。ツアーで世界を回るのが楽しみ、待ち切れないよ』

アルバムのオープニング曲は、もちろん「Who Let The Dogs Out」。そしてトラック「Get Ya Party On」は初期のヒップホップ、例えばKool Moe DeeやKurtis Blowのようなラップ・レジェンドに捧げた曲。『これはジャンカヌー・スタイルで料理したヒップホップ曲』とメンバーのハーシェル・スモール。「Getting Hotter」は音楽的にはトリニダードのソカ・サウンドに軽く会釈した、といった音に仕上がっている。そして「Summer of Love」と「You Can Get It」(それぞれ一流ソングライターのマーク・ハーマン、デズモンド・チャイルドとの共同作曲)は、聴き手が思わずリズムを刻んでしまうポップとジャンカヌーのハイブリッドだ。

「It's All In The Mind」は、いわばジャンカヌーがカメオと出会った曲とでも言おうか。アルバム中、唯一のスロー・ナンバー「Where Did I Go Wrong」は、オメリットのシルキー・スムースなヴォーカルをフィーチャー。そして彼等のパーティー・ムードは、一気に「What's Up, Come On」、「You're Mine」、「Shake It Mama」でもり返し、アルバムのエンディングには、ハンブルグ出身ザ・バーマン・ブラザーズによってリミックスされた「Who Let The Dogs Out」が収録されている。(日本盤には、2曲目に「Suger Baby Love」が収録されています)

『これはまさにパーティ・アルバムなんだ。すべての恋する男達のためにスロー・ナンバーも入ってる』とヒールド。『このアルバムをライヴで演奏するのは、すごく楽しいだろうね。僕らのショーを観に来た観客は、間違いなく客席でおどり出すと思うよ』

『Who Let The Dogs Out』こそ、バハ・メンをアメリカでスターにするアルバムのようだが、日本で彼らは5枚のプラチナ・アルバムを獲得し、すでにコンサートでは大人気のメジャー・グループであることも挙げておきたい。また、彼等はタルサ・ティーン1998のU.S.ツアーでハンソンのオープニング・アクトを務め、ハリウッド・ボウルやレッド・ロックスといった会場でもプレイしている。そしてアメリカの何百人ものテレビ視聴者やラジオ・リスナーは、バハ・メンの「Back to the Island」をよく知っている。というのもここ何年間か、バハマの広告といえばバック・ミュージックにこの曲が使われてきたからだ。『バハ・メンは、私達の最も大事な音楽大使なんですよ』とバハマの観光局会長Vincent Vanderpolは言う。『彼等の音楽をアメリカの放送電波にのせることができ、誇りに思っております』

むろん地元ナッソーに戻れば、イザイア・テイラーやメンバー達が、誰にも気づかれず町を歩くのはほとんど不可能。国が生んだ最も成功したバンドのリーダーとして、その圧倒的な人気ゆえ多くの人に‘バハマ市長’と呼ばれているテイラー。だが彼はそういったセレブリティー扱いにも動じない。『別に支障はないんだ。ふだんクラブやリハーサルに入る以外はいつも家にいるし、それに誰もが僕を知っていても、大通りやダウンダウンを歩くことだってできるわけだからね』

テイラーは感情豊かな個性の持ち主で、彼に会った人誰もが彼のことを前から知っているような気分にさせる、といった人物。いろいろな経験を重ね、《ボブ・マーリー(『彼は気取りのない気軽に向き合って話せるような人だった』)との出会いに始まり、何千もの熱狂的な日本人ファンのためにプレイするに至る》彼は『Who Let The Dogs Out』がどういった受け止められ方をするかに気を揉んだりしない。『このアルバムをとても気に入ってるんだ。僕はこれをベスト作品だと確信しているし、世界中がこのアルバムを楽しんでくれることを望んでいるけど、心配はしないんだ。ハッピーでいるための秘訣は、変えられないことをくよくよ考えないことさ。もっと身近なことを考えるべきなんだ。せっせと仕事をして、ハッピーに、それで人生に感謝することだよ』


topに戻る トラックリスト

back to avexnetwork top