スクリーンに映るファンタジーの世界。そこから抜け出し安室奈美恵が降り立ったのは、ビープ音と不協和音が螺旋を描くエレクトロニックなバロック・ナンバー「Ballerina」が鳴り響くステージ。ダンサー陣を従え、凛と歌い踊るその姿をスポットライトが照らすと、会場から大歓声が上がる。目の前にいるのは確かに、この瞬間を待ち焦がれた安室奈美恵だ。ああ、やっぱりこの人は現実に存在するのだ。胸の奥から熱い思いがこみ上げて来る。
「ALARM」、そして「WANT ME, WANT ME」と、クイーン・オブ・ヒップポップなナンバーを立て続けに披露し攻めのスタイルで一気に盛り上げた後は、「Big Boys Cry」でコケティッシュな魅力を振りまく。まだライブが始まって間もないというのに、もはやすべての観客はすっかり、クールでキュートな安室奈美恵の虜だ。
『namie amuro LIVE STYLE 2014』はまさに、そんな安室奈美恵の魅力をさまざまな角度から体感できるツアーだった。ベストともいえる選曲、冒頭のクールでコケットな表情はもちろんタフネスで美しい姿、とびきりスウィートな一面、そして何よりも彼女が歩んできた軌跡の輝き。中でも印象的だったのが、「FUNKY TOWN」でダンサー陣とサブステージ上で繰り広げた椅子取りパフォーマンスや、「Contrail」や「Baby Don't Cry」で観客と共に大合唱する場面。ライブ以外では公の場に滅多に姿を見せず、そのライブでも一切MCはなし。そんなストイックな彼女だけに、「FUNKY TOWN」の最後で椅子を勝ち取った時の限りなく素に近い笑顔や、アンコールで最後に披露した「Baby Don't Cry」でのとびきり可憐な仕草は、彼女流のオーディエンスとのコミュニケーションなのだろう。
また、キャリア初のバラードベストアルバム『Ballada』からのナンバーを多々ちりばめた選曲も、今回のツアーの鍵を握る。巨大な蝶々を背景に黒いドレス姿で日替わりバラード(収録日は「The
Meaning Of Us」)を歌った場面や、「SWEET 19 BLUES」や「CAN YOU CELEBRATE? feat. 葉加瀬太郎」、「Whisper」といった名曲を大人になった今だからこその歌声と解釈とアレンジで聞かせるシーンは、安室奈美恵というシンガーの軌跡を振り返る意味でも、非常に貴重な一幕だったと思う。
もちろん今回のツアーも決してバラードツアーというわけではない。「Love Story」や「TSUKI」といったメランコリックな曲を聞かせた後には、「Supernatural Love」や「Hands On Me」といった、ダンスミュージックに回帰したアルバム『FEEL』からのアッパーチューンもがっつり披露。ハイセンスなダンスを繰り広げながらパワフルに歌い、エッジィな安室奈美恵スタイルをしっかり貫く。例えばその象徴的な一幕が、毒を含んだリリックを平井堅とのデュエットで聞かせた「グロテスク feat. 安室奈美恵」を、白馬にまたがりビートに合わせてムチを打ち鳴らしながら一人で歌いきったシーン。アルバム『PLAY』で確立したイメージも彷彿させるあの場面は、強くて美しい安室奈美恵を求めるすべてのオーディンスの心を直撃したに違いない。
最新シングル『BRIGHTER DAY』からの新曲「BRIGHTER DAY」と「SWEET KISSES」、そしてアンコール3曲を含む全29曲。それらを真摯に歌い、ダンサー陣と共に見事に踊り切る。改めて彼女は素晴らしいシンガーであり、タフネスなエンターテイナーだとつくづく思う。あれだけのステージを作り上げるためには、バックステージでは恐らく、多くの努力や苦悩があるはずだ。けれど彼女はそれを口にすることはない。もはやそれは単なるライヴパフォーマンスの域を超えて、彼女の生きざまそのものとも言える気がする。『namie amuro LIVE STYLE 2014』であなたが目撃し、感じたもの。それだけがシンガー、安室奈美恵の真実なのだから。
(text/Kanako Hayakawa)