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2021.12.08

本日発売の2ndアルバム『dew』オフィシャルインタビュー公開!!

本日12月8日発売の2ndアルバム「dew」オフィシャルインタビュー公開!!

アルバム制作の裏側や楽曲に込めた想いを是非ご覧頂いて、アルバムをお楽しみ下さい!!
 
 
【水のように、さまざまなアプローチで届ける2ndアルバム】
 
ーー前作『Lantana』から1年ぶりのリリースとなった2ndアルバム『dew』ですが、アルバムの制作はいつ頃スタートしたのですか?
KEIKO アルバムの話をしたのは4月になるのかな? 3月に「桜をごらん」をリリースして、そこから2ndアルバムをどうしようかってプロデューサーの与田(春生)さんと話をした時に、「とりあえずどんなアルバムにしてみたいか、KEIKOの中でイメージするものとかキーワードを考えて打ち合わせしよう」っていうのがあって。それを色々考えていたのが4月の前半あたりで、その後ぐらいに打ち合わせをして、という感じでしたね。
 
ーー『Lantana』ではソロとしてKEIKOさんの音楽的な可能性を探るような、新しい感覚の一枚となりましたが、今回KEIKOさんの中でイメージしていたものは?
KEIKO 1stの『Lantana』を経て「桜をごらん」という、つんく♂さんによるすごくJ-POP的な、自分が学生時代に聴いていたような耳馴染みのあるサウンドを歌った後の制作だったので、自分としてはすごくフラットなベースがありました。
「この歌をうたいたい!」という様なチャレンジしてみようとか冒険しようという感じではなく、一回俯瞰で見て、「どういうものが今一番しっくりくるアルバムなのかな?」ということを意識しながら今回のアルバム作りには取り組んでいたと思います。
 
ーーそれこそ昨年はソロ元年として様々な挑戦をして、それが一周まわった後のフラットな目線というか。
KEIKO どうなんだろう? 自分としてはまだ一周まわれてないと思う。ただ、去年はまず自分が何を歌ったらいいかなっていう所から始まったので、ちょっとシンプルに立ち返ってみるというか、そういう気持ちの方が大きかったのかな?
何をやったら良いか分からない所からスタートするというのは楽しいし何でも出来るというか、「やってみよう」という気持ちになるし、挑戦を色々やってみた後に自分が落ち着く場所って見つかると思うんです。
今後も常に挑戦はしていきたいけど、今回のアルバムの軸としてはソロになってから一度挑戦をした後に少なからず見えたものを形にしてみた感じです。
 
ーーそんな視点から生まれた『dew』というアルバムですが、いわゆる霞や雫、瑞々しさという意味のタイトルにはどう辿り着いたのですか?
KEIKO タイトルを決めたのは最後です。今までも曲とかアルバムではタイトルが先行したことないんですよ。タイトルは出来上がった全体像を見てという感じでつけたかな?
タイトルは何がいいか悩んでいたんですけど、今回自分で作詞も含めて一緒に制作していくなかで、なんとなくお水の持つ癒しみたいな音や自然の水の豊かさとかを感じていて。
お水の世界ってぼやけたり、透明感だったり、時には濁らせたりとか色んなイメージが膨らむじゃないですか?
それでお水を関連させる綺麗な言葉がないかなって探して決めました。
 
ーー確かに「通り雨」や水を連想させる曲も多いですよね。また今作では前作の「七色のフィナーレ」に続いて4曲で作詞をされています。改めてソングライティングに関わってみていかがでしたか?
KEIKO 前回よりも構えなかった感じはしました。「作詞しなきゃ」とか意識せず、気持ちの持っていき方も自然にできた感じはあるかな。昨年の自分はスタートしたばかりだったから作詞をすることに頭が勝手に働いて、「作詞するのか……書けないよ」っていう気持ちが先行してしまったんですが、
今年は「どんな音楽を歌いたいかな?」とか「書きたいかな?」とか、言葉選びも含めて楽しかった時がいっぱいありました。
 
ーー確かに今回の楽曲ではそうしたKEIKOさんのナチュラルなお気持ちが出た歌詞になっていると思います。
KEIKO 出てた? 出てた? 恥ずかしい(笑)。
 
ーーではそんな『dew』の収録曲についてお伺いします。まずは冒頭を飾る「Nobody Knows You」ですが、非常にどしっとしたサウンドやボーカルが印象的な一曲ですね。
KEIKO これはもう”ひと聴き惚れ”ですね。アルバムを作るにあたって与田プロデューサーから「KEIKOが歌ったら面白いかな」っていうものを何曲か頂いて、そこから選曲していきました。
前作の『Lantana』が自分の色んな声の響きを探していたとするなら、今回の『dew』は低域の色んな表現を探していくアルバムになると良いなという軸があって。
 
ーーKEIKOさん本来の魅力であるボーカルの低域にフォーカスを当てたと。
KEIKO その低域と共にKEIKOの声×チェロというサウンド作りをしていこうかなというのを最初の打ち合わせで話していました。その中で「Nobody Knows You」は世界観がドシっとしたインパクトがあったので、メロディも含めてそこが魅力なのかなと。それで「あ、一回声をあてたい」って直感的に思ったんですね。
 
ーー歌ってみたくなる曲であったと。
KEIKO あとはウィスパーボイスというか、声に芯があるというよりも耳元で囁くという声の作り方もこの曲ならではかな。自分はライブ活動をメインにやってきたのもあって、ライブでダイナミックな音楽を歌う時にウィスパーボイスだと負けちゃうことがあるんですよ。
レコーディングスタジオで作るボーカルと、ライブのボーカルって立ち位置が違くて、それこそウィスパーボイスで声を作り続けていくという制作の仕方もこれまであまりなかったので、それも含めて面白い低域で作れそうだなって。
 
ーーKEIKOさんの魅力的なレンジを、これまでと違うアプローチで歌うという意味でも、ソロとしての新しさが見えた曲ですよね。
KEIKO そうですね。アルバムの1曲目に相応しい曲ですね。サビのメロディラインもインパクトがあったし。
 
ーーそこから続く「通り雨」では一気にシンプルな編成となりましたね。またこの曲ではKEIKOさんが作詞も担当されています。
KEIKO この曲は、今回一緒にサウンドアレンジをして頂いたejiさんがかなり昔に書かれた曲をサンプルとして頂いていたんですね。それでメロディラインにすごく惚れて、「これに歌詞を書いてみたいです」ってなりました。サンプルの段階ではもっと広い絵が見える曲だったんですけど、あえて派手にしないでシンプルな方向でどうですか?ってejiさんに伝えたら、ピアノとチェロというすごくシンプルなアレンジが来たので、自分の歌詞のイメージも大きいものからすごく小さな世界観のものにしたいと思ったんです。
 
ーー「Nobody Knows You」から「通り雨」という、このアルバムの幅広さが見える構成になっていますよね。
KEIKO うん、だいたいアルバムって3曲目ぐらいまでで、どんなアルバムかってイメージしません? その中でやっぱりアルバムとしてもチェロ×声というものをすごく大事にしたいなって思ってこの曲順になりました。
 
ーーそこからのキャッチーなメロディとなる先行シングル「桜をごらん」へと続きます。
KEIKO アルバムとしてこのラインは決まってました。音楽にはドラマが絶対に必要で、アルバムだと一番最初から最後までがそう。私はこのアルバムを通してきちんとしたドラマを感じてもらいたかったから、「Nobody Knows You」と「通り雨」で閉鎖的な私の世界に入ってもらった後は、やっぱり救われたい。なので最初の段階でつんく♂さんによる救いを入れたいなと思っていました。
 
ーー緊張感がある導入から、この曲でアルバムの流れとしても気持ちが穏やかになるというか。
KEIKO そうですそうです。私も救われます(笑)。
 
 
【未知のアプローチと作曲という新たな世界】
 
ーーそうした冒頭3曲で聴かせることで、アルバムとしてのバリエーションも見えますよね。なのでそこからアグレッシブな「ミチテハカケル」への展開も良い楔になっているというか。
KEIKO 昔からなんですけど、テンポ感やコード感とかで聴く人のテンションをどう持っていきたいかって考えるのがすごく好きで。そうなった時に、3曲目までのテンポ感からするとやっぱりアゲたくなるんですよね。なので次はBPMが高いものをと思っていたので、そこに「ミチテハカケル」がぴったりだったんですよ。
 
ーーここで一気にアクセルを踏み込むような加速感がありますよね。
KEIKO BPMが190ぐらいあって、私の曲の中で一番速いんですよ。もともと2ndアルバムは音楽性としてもあまり広げていかないアルバムにしようと思っていて、アッパーな曲もいらないんじゃないかって思っていたんだけど、バランス的にも絶対にあって良かったなって思いました。
 
ーーこれによってアルバムの幅もぐっと広がりましたし、さらに次の曲が良い意味で読めなくなりますよね。
KEIKO そう。一瞬、次の展開を見えなくさせてくれますよね。景色を一度ガラッと変えてくれる、テンポ感ある曲は力があるんだなって私も思いました。
 
ーーだからこそ、続くKEIKOさん作詞の「ラテ」もより効果を発揮するというか。
KEIKO この曲、びっくりしませんでした?
 
ーーまさに。これまでのKEIKOさんにはないアプローチで、ある種ボーカルを空間的に聴かせるような……。
KEIKO 正解! 澄川さん正解!(笑)。そうなんですよ。この曲は8月の夜に与田さんからいきなりデモ音源が飛んで来たの。それで開いてみたら、オシャレな空間音楽みたいな曲が流れてきたんですよ。その時はピアノのシンプルなメロディだけが送られてきて、どちらかというと夜にドライブしながら流して聴いているような、夜がずっとループしていって欲しいなっていうサウンドで。あまりにもオシャレ空間で、与田さんに「なんですかこれ?」って聞いたら、「意外性だよ、KEIKO」って(笑)。「KEIKOの意外性を試したいんだよね」って提案された曲でした。
 
ーー確かに浮遊するような序盤からビートが足されていくダンサブルなアプローチは意外でした。
KEIKO 自分でも意外だったので、こういう空間的な音楽をどれぐらいのテンション感で歌えばいいのか、歌詞も含めてどういう風に表現するのが正しいのかって考えました。なので「作詞はKEIKOだな」ってふんわり言われて「はい」って言ったけど、そこから1ヵ月ぐらいかかりました。他の楽曲の制作もしていたし、梶浦(由記)さんのツアー中という言い訳もさせて頂きますけど(笑)。
 
ーー今までの自分にはないアプローチだからこそ、そこにハマる言葉がなかなか見つけられなかった。
KEIKO この音にどんな言葉を当てはめたら良いのか正解がわからない。どっちかというと「通り雨」とかの方が語りやすかったです。でも「ラテ」はラップに近いというか、響きとして気持ちが良い言葉遊びみたいな、そういうのが良いんだろうなって思いました。
 
ーー確かにここでの歌詞は他の楽曲にはない軽やかさがありますよね。
KEIKO 重くなっちゃいけない。声的にも重たい言葉とか景色が出てきちゃうんですけど、すっごく軽い言葉が欲しくて。でもその軽い言葉がなかなか出てこなくて、「どうしよう!」って思っていたら、そのときラテを飲んでいたので「私の日常を切り取るのでいいや」と思って書いてみたら、こういうのが合うってなったんですね。そのきっかけを掴んだ瞬間、バーっと書けました。
 
ーーそれこそ”風走る 夢走る 2人 音走る 先走る”という軽快なライミングというか。
KEIKO そう、ほんと言葉遊び。
 
ーーそこからサビでは”シャナン シャナン シャナン”というスキャット的なフレーズになるという。
KEIKO 結局、自分が歌い慣れてきた造語になりました。でも自分がずっと歌ってきた、妖艶な世界観の造語とはまた違った、少しキャッチーな感じ、軽い感じ(笑)。
 
ーーそうしたアプローチはフレッシュな一方で、KEIKOさんに合っている気がします。
KEIKO うん、最終的に楽しかった。今回のアルバム全体の歌唱もちょっとおしゃべりしながらの発声みたいな感じなんですよね。これまでは響き的に背中や胸周りとかと共鳴するような発声が多かったんですけど、今回は喉周りと口頭周り、胸や背中より上のほうで響かせるような発声が多くて、そこはアルバム全体で統一させました。「ラテ」も深い所で響かせると重くなるので、軽やかなビートに合わなくなってしまう。その辺は制作しながらも面白かった部分ではあったかな?
 
ーーそうした新しさがあった後には、ejiさんとの「八月の空」でまた序盤の空気感が戻ってきます。ここでは作詞だけではなく、作曲も担当されていますね。
KEIKO そうです。これはejiさんがコードだけポーンと投げて下さって、与田さんからも「ちょっと鼻歌で作曲やってみなよ」って言われて、自分の心地良いメロディを見つけてみて、ふふふんって歌ってみたものを録音しようってなったんですけど……これまた難しくて。
 
ーーその鼻歌でのメロディを見つけるのが難しかった?
KEIKO 鼻歌が全然まとまらなくて(笑)。思いついても結局「なんだこの鼻歌」ってなってしまって、没没没って繰り返して。やっと「できたかな?」って、ある程度まとまったものを次の打ち合わせに持っていっても、まとまったものだと思って蓋を開けたらまとまってなかった(笑)。
 
ーーなかなか自分で納得するものが出来なかったわけですか。
KEIKO これまで自分が"美しいな…キャッチーだな"と思うメロディラインの楽曲に惹かれて歌ってきたからこそ、自分が作った音符たちは"歌いたい"という気持ちにならなかったんですよね。高まらなかった…。
 
ーーシンガー・KEIKOが課すハードルをなかなか越えられなかったんですね。
KEIKO 挑戦することは大事だし、「やってみようよ」っていうのが今のチームの前向きな所で私も支えられているんですけど、やってみなよっていう子供のような遊び感覚な気持ちが、作詞作曲になるとついつい忘れがち。
なのでちゃんと子供に戻って「よし、鼻歌だ!」ってなって、他の作業をしている時に「1時間ぐらいこもっていい?」ってお願いして、そこで「ちょっと出来てみた!」ってものをejiさんに整えてもらったんですね。
 
ーーちなみに自分が作ったメロディを歌った感想はいかがでしたか?
KEIKO RECの時もそうだし、ライブで歌ってみてもそうなんですけど、悩んで作ったからか抜けないし、パって飛ぶことはないです。それが面白かった。緊張して一瞬真っ白になる経験はあるんですけど、この曲は自分の体の感覚と、自分の思っている感覚で出てきたものだから、これが私なんだなって。
 
ーーそれもこれまでにはない経験であり、KEIKOさんの新しい魅力を発見できたのかなと。
KEIKO だといいけど……。私って、もともと梶浦さんの曲に惚れていて、歌いながら「このメロディ最高!」って惚れているんですよ。そういう流れで「Nobody Knows You」とか「通り雨」とか「桜をごらん」とかも「いい!」ってなって、それが声に乗っていくタイプなんですよね。だから嫌なものも声に出ちゃう。自分の中から出たものだとしても、良いものじゃなかったら絶対歌わないから、その辺は頑固だと思います。だからこうやって世に出させて頂くものになったということは、少なからず心地良かったのかな?
 
 
【歌が見えている曲と、歌を探していく曲】
 
ーーそうした新しさを感じた中盤から、後半は再びアグレッシブな「現実のメタファー」から幕を開けます。
KEIKO この曲もアルバム制作序盤に引っ掛かっていた曲ですね。
「KEIKOが歌っているのが見える」と言われて、声を当ててみたら「なんだろう、この長年歌ってきた感は?」みたいになり、採用!でした。
 
ーー確かに曲調としてはKEIKOさんが歌ってきたテイストがありますよね。
KEIKO テンションを上げたくなったり歌いあげたくなるメロディなんですけど、そこをしないっていう所を一番大事にしました。本当だったらうわーって歌いあげたほうが気持ち良いと思うんですよ。ここからもうちょっと気持ちテンポ上げて、キーも半音上げてってなるとアニメソング的になるというか。それぐらい聴き心地の良い懐かしいメロディなんだけど、それをあえて行き切らないっていう所が、このアルバムに入れたい方向性だったんです。
 
ーーKEIKOさんらしさを感じさせるんだけど、そこでのボーカルアプローチは今っぽくという。
KEIKO 歌い上げない。自分が気持ち良くなっちゃいけないという意味では初心に帰らせてもらいました。自分がまだ音楽活動を始めた二十歳ぐらいの頃で、当時のプロデューサーさんに「ステージで歌っていて自分が気持ち良くなったらまだアマチュアだよ」って言われたんですよ。誰かに届けたいという時に自分が気持ち良くなって歌い上げていると、人には届いていない。
 
ーーその難しいバランスがプロとアマチュアの境界線というか……。
KEIKO 若い頃ってそんなことわからないんですよね。この曲も昔だったらめちゃくちゃ歌いあげていたと思うし、そうやって歌いたくなる曲なんですよ。だから皆はカラオケでものすごく歌い上げてほしい(笑)。でも今の私が歌いたい「現実のメタファー」ってこういう感じ。ある意味この曲を通じて今の自分を知ることが出来ました。
 
ーーそして続いてはejiさんとのコラボとなる「キミガネムルカラ」。
KEIKO ejiさんと作る曲はひとりの時間を楽しむような、”自分と音楽”というような時間を作れる曲にしたかったんです。音楽を聴きながら自分を見つめる瞬間であったり、クールダウンする時間であったり、そういう時間にしたいなって。「キミガネムルカラ」は暗めの曲でコードもすごく暗い感じ、見える景色は夜な感じで……という具体的なワードをejiさんに投げさせて頂きました。もともと私がサントラの楽曲とか好きだから、楽器メインにしたヒーリングテイストのような、時折言葉がふと出てくるような曲をアルバムに一曲入れたかったんです。なのでこの曲ではチェロだけじゃなくて弦を重ねて、ejiさんに書いて頂いた曲の中でも、これでもか!ってぐらい弦攻めして頂きました。
 
ーーそうしたアプローチの違いはあれど、他の曲と比べてもKEIKOさんの作詞も含めてミニマムな視点での世界観というのは共通している気がしました。
KEIKO 私も聴いてみて、「ラテ」の浮遊感やループしていく感じと、違うジャンルなのに軸が共通するものが出来たなって思う所はありましたね。
 
ーー異なるサウンドでも一本軸があるという、そこが『dew』的にまとまっているんですよね。
KEIKO そう、すごく不思議。アルバムってこうやって作られるんだって思います。
 
ーー続いては昨年発表されたアグレッシブな「笑ってやる」。
KEIKO 和メロなんだけど突然の英詞という和とロックの融合という感じで。これも「ミチテハカケル」と同じように、アルバムに入れるかは保留にしていた曲だったんですけど、アルバムの中でもどこか和テイストを入れたいなって思っていて。後、ここら辺でまったりしつつあるからそろそろ叩き起こす時間かなと(笑)。
 
ーーアルバムの場所的にもクライマックスに向けてもう一度楔を打つというか。
KEIKO そうそう、また景色の切り替えどきかなという。
 
ーーそして続いては壮大なバラードとなった「Revolution」です。
KEIKO 「命の花」のテイストがすごく好きで、同じ作家さんに今回のアルバムでもお願いしたかったんです。ただ最初に頂いた歌詞は男性目線で、それも良いなとは思ったのですが、愛情深い歌詞になっていたので、私が歌うにあたって女性目線にしてもらいました。本当はアルバムの一番最後に入れたかったんですけど、それだと「命の花」が最後の『Lantana』と似てしまうので、今回は違う立ち位置で歌いたかったというのもあってこの曲順にしました。「命の花」も含めて私が歌い続けていきたい“人への愛情を歌いたい”という方向性ですね。
 
ーーこの愛情に溢れた歌詞がまた感動的で、今この時代に生きる人達にものすごく刺さる内容だなと。
KEIKO この曲を収録したのは一番最後だったんですね。歌詞があがってきたのもアルバムで一番最後。で、すごい偶然だったんですけど、この曲の歌詞と私が書いた「キミガネムルカラ」で偶然ワードが一緒の所があって、歌詞を読んだ時に一瞬「あれっ、私これどこかで歌ったぞ」って(笑)。
 
ーー”泣かないで”というフレーズですね。
KEIKO やっぱり私って、自分が歌いたいものに引き寄せられているんだな、歌うことが運命だったんだなって思わせてくれて、歌っていてちょっとドキドキしました。
 
ーーそこは大きな愛を歌いたいというKEIKOさんの想いとシンクロしたのかも。
KEIKO 今回制作していて、そこは繋がっている気がしました。
 
ーーお次の「Lost」は、幻想的なムードにグッとくるファンも少なくはないはず。
KEIKO 「Lost」は春の時点で、私が歌いたい曲達の中に入っていたひとつです。なんなら4月の時点で一番最初に声当てした曲ですし、それこそ2ndアルバムの表題としても挙がっていました。こうした三連の、女の子が好きなドーリーな世界観というか、それこそ私が梶浦さんの世界で歌わせて頂いていた物語的な世界に近いですね。この曲と出会う時はどんなテイストのアルバムにするかまだ決まっていなかったので、もしかしたら「Lost」が表題になるようなアルバムになったかもしれないと思うと、やっぱり私の中でもKEIKOとしてやりたい音楽性のひとつなのかな。
 
ーー置き所によっては『dew』の方向性も大きく変わったかもしれないと。やはりこうしたサウンドはKEIKOさんによく似合うというか、ボーカルもまた美しいなと。
KEIKO 音楽によっては作りながら見えてくるものと、初めから見えているものというのがあって、見えているものは声に迷いがないんですよね。「現実のメタファー」とか「Lost」って、歌いながら見えているものがある。それはKalafinaの時から自分の中で持っていたもので、曲を聴いた時から世界が見えていて、こういう歌唱でっていうのがある。それがソロを始めてからは「これもありかな?」という楽しみも出来て、「ラテ」とか「八月の空」では「この曲だとどういう世界がいいかな?」って悩むと、必然的に声も悩むから、そこから正解を探していくんです。
 
ーーすでに見えているものが混在している、それがアルバムのバラエティ感に繋がっていくわけですね。そして『dew』の最後の曲となったのが、「Burn In The Wind」です。「Revolution」と共に深い愛情を歌う曲ですが、こちらはより開かれた、爽やかなテイストになりました。
KEIKO そうですね。「Nobody Knows You」「Lost」「Burn In The Wind」の3曲は最初から歌いたいと思っていた曲で、この曲もレコーディングした時期は早かったです。最初は「歌詞はKEIKOが書く?」って言われたんだけど、これは逆に作家さんに愛情深い恋愛ソングとしての方向で書いて欲しいとお願いしました。重たくなくて開けていきたいという曲だったので、自分が書くよりも俯瞰した愛の歌の方がいいだろうって、メロディを聴いて直感的にそう歌いたいなって。
 
ーー”次に進むためにも”というフレーズもありますが、「Revolution」ではなくこの曲でアルバムを締め括ることで、より未来に向かって開かれた印象が強くなりますよね。
KEIKO 音楽って面白いですよね。一曲でドラマを完成させているのに、アルバムってなると一枚として完結させなきゃいけない。それが面白さでもあるんだけど難しさでもある。でもそれをみんなやってのける、それがアーティストのカラーになるんですよね。私も年に一枚アルバムを出せたこのスピード感があるからこそ出来ることだなって思うし、自分の置かれている環境に感謝ですね。
 
ーーこの1年でKEIKOさんが経験したことがしっかりと反映出来ているアルバムでもあるわけですね。
KEIKO 今年は去年に比べてお客さんを前にして歌う機会が多かったから、モチベーションが違いましたよね。チームで探してみる、発信してみるというだけじゃなくて、皆にどんな景色を届けたいかなって思えたことで、活動として去年より前に進めた気がします。お客さまとの時間を切り取ってアルバムの制作に入れているなって実感するし、それも去年からの経験があったからこそだと思います。
 
 
【挑戦しながらもブレない、KEIKOが追い求める音楽】
 
ーーさて、本作は多くの楽曲でMVが制作されています。こちらはすべて『dew』の初回限定盤にも収録されていますね。
KEIKO 収録曲から、「ミチテハカケル」「桜をごらん」「笑ってやる」以外の9曲で映像を作らせて頂きました。これこそチームからの提案で、今は映像と一緒に楽しんでもらえる時代じゃないかなって。音だけでお届けるするものもひとつのやり方だけど、アーティストとして視覚でも発信していくべきなんじゃないかなという発想で、そこは私の中にはなかったものだったので、すぐに「やってみたい!」って思いました。映像制作は若いスタッフと一緒になって曲のイメージを伝えてそれを映像にしてみたんですけど、そこもアルバムを作るうえで新しい経験でした。
 
ーーそれこそ映像表現としても多種多様で、「Nobody Knows You」では渋谷の街並みも登場しますね。そこもフレッシュな印象があって。
KEIKO そう! 渋谷です。あれはどうしても入れたくて。「Nobody Knows You」の混沌とした世界には、今の時代を切り取る絵が欲しかったんです。それには渋谷は絶対に欠かせない。私も昔から長くいた場所でもあるんだけど、時代の移り変わりとか人の流れとか、混沌とした感じを出すのには渋谷が一番だと思って、ちょっとでも入れてほしいって映像チームにお願いしました。
 
ーーそうした現実のモチーフや非現実的なものまで、映像表現もアルバム同様さまざまな角度から『dew』を表しているものだと感じます。
KEIKO そうですね、「Lost」みたいなドールハウス的な世界観もあれば、もっとリアルな今を届けたいというものもあって、それぞれを皆と共有しあえたらなと思って作ったんですけど、改めて映像制作はやってみて良かったなって思いました。
 
ーーそうした視覚と聴覚が調和したアルバムとしても興味深い一枚となりました。2021年は有観客でのライブも数多く開催されました。最近では10月からeplus LIVING ROOM CAFE&DININGを舞台にしたライブ”KEIKO Lounge”シリーズが3ヵ月連続で開催中です。『dew』リリース後の12月19日には、”KEIKO Lounge K007・K008 ~12月の夜明け~”が行われますね。
KEIKO そうなんですよ、うれしい。
 
ーーホールやライブハウスと違ってアットホームな雰囲気ですが、KEIKOさんのステージ上での向き合い方に変化はありますか?
KEIKO そういうのはあまりないかな? 10月も11月もホールと思ってめっちゃ歌っていたから(笑)。披露した曲もダイナミックなものが多かったし、新曲では白玉っていう音符の長さが長い、ロングトーンが多い曲ばかりだったので、ミニマムな歌い方をしていると届かないんですよね。ちゃんと朗々と歌わないと自分の胸にも響いて来ないし、それって私はすごく気になるんですよ。例えば日本武道館で歌う時は九段下駅まで届くぐらいの声量で歌っていたけど、この前歌った「七色のフィナーレ」はそれぐらいで歌っていたし、そこはやっぱり癖なんですかね。
 
ーーとはいえお客さんとの距離も近いので、そんなパフォーマンスを間近で聴けるのは贅沢ですよね。
KEIKO 確かにあの距離感は良いですよね。ああいった皆で一緒に作っている空気感は、ライブをやる醍醐味として大事にしていきたいと思いましたね。やっぱりお互いやっていて「これこれ!」って思い出すから。
 
ーーファンと一緒にライブを作り上げる。改めて今の時代には大事なことですよね。
KEIKO こうして少しずつ、できる限り生のサウンドで一緒にやる時間を作ることで、皆にとっても私たちにとっても、音楽を楽しむことを覚えておくというか。楽しい時間も忘れていってしまうから、いつでも「これこれ!」っていう瞬間を取り戻せるように、そういう時間を届け続けていきたいなっていうのは今回のマンスリーで再確認できました。
 
ーーそうした経験が2022年以降の活動にも繋がっていくと。それが次作以降の新しさとリンクするのかなと。
KEIKO でも根本は変わらないかな。自分の中では「良い音を届けたい、以上!」っていうのがあるので。それは梶浦さんとやっていても新しいチームとやっていても、自分で作曲していても何も変わらないので。だからそうじゃないものはやらない。良い環境で良い音楽を皆が聴けるというのを提供し続けていける存在でありたいので、そこはブレずに来年に向けても挑戦していきたいなって思います。
 
文:澄川龍一