1936年東京生まれ。父はチェリスト、母はピアニスト。豊増昇、安川加壽子、レオーニード・コハンスキーに師事。1960年東京藝術大学を首席で卒業。同年9月28日第一生命ホールにてデビューリサイタルを行う。64年よりヘルシンキ在住。68年メシアン現代音楽国際コンクール第2位。同年よりフィンランド国立音楽院シベリウス・アカデミーの教授をつとめる。74年第4回福山賞受賞、76年フィンランド大統領より獅子第一等騎士勲章を授与され、81年より、フィンランド政府の終身芸術家給与を受けて演奏生活に専念している。96年、日本と諸外国との友好親善への貢献に対し、外務大臣表彰受賞。 これまでに、日本と北欧5カ国をはじめ、世界各国で3500回以上のコンサートをおこない、その温かく、人間味あふれる演奏によって、あらゆる地域の聴衆に深い感動を与えている。
 
 純度の高い、透明な抒情を紡ぎだす、この孤高の鍵盤詩人は、01年、3夜構成による演奏生活40周年記念リサイタルを全国で行った翌年(2002年1月)、演奏会中に脳溢血で倒れ右半身不随となる。2年半に及ぶ苦闘の日々を不屈の精神でのりきって、04年5月左手による演奏会で復帰をはたす。その左手のために、間宮芳生、ノルドグレン、林光、末吉保雄、吉松隆、谷川賢作、coba等第一線で活躍する作曲家より作品が献呈される。命の水脈をたどるようにして取り組んだ左手による作品は、静かに燃える愛情に裏打ちされ、聴く人の心に忘れがたい刻印をのこす。
 
 「左手のピアニスト」として演奏活動を再開した感動のストーリーは、あらゆるメディアによって紹介されることとなる。ドキュメンタリー番組NHKハイビジョン特集「左手のピアニスト~舘野泉ふたたびつかんだ音楽~」は、04年度NHK衛星放送局局長賞受賞、TBS制作左手の作品を探るドキュメンタリー番組「奇跡のピアニスト」は、06年度年間テレビベスト作品に選ばれた。さらにテレビ朝日「報道ステーション」、NHK「あさいち」、NHK「クローズアップ現代」の報道番組にも取り上げられ、注目されるとともに、着実に新たな音楽世界を切り開いている。
 
 06年、左手の作品の充実を図るため、「舘野泉 左手の文庫(募金)」を設立。全て委嘱作品によるリサイタル「彼のための音楽を彼が弾くVol.1」を、サントリーホールにて行う。以来、毎年委嘱作品を発表し続ける。
 2010年演奏生活50周年を迎える。その記念公演では、室内楽作品を委嘱し全国公演を行なう。2011年8月、ヘルシンキにおいて東日本大震災チャリティコンサートを、すべて邦人作品によるプログラム(ソロ~室内楽~協奏曲)で行う。2012年NHK大河ドラマ「平清盛」テーマ曲のソリストをつとめる。2年間を通じて行った左手ピアノ音楽の集大成「舘野泉フェスティヴァル~左手の音楽祭2012-2013」では、東京全16回公演でソロ作品から室内楽作品を紹介し、2013年11月の最終回は自身に奉げられた3つのピアノ協奏曲で全国ツアーし、壮大なプロジェクトを完結。2014年6月ベルリン・フィルハーモニー・カンマザールでのリサイタルは、全聴衆総立ちのスタンディング・オーベーションで讃えられた。
 
 06年、シベリウス音楽の普及に貢献したとして、フィンランドシベリウス協会より「シベリウス・メダル」を授与される。08年、長年の音楽活動の顕著な功績に対し、旭日小綬章受章、および、文化庁長官表彰受賞。2012年度東燃ゼネラル音楽賞洋楽部門本賞(旧エクソンモービル音楽賞)受賞。
 
 リリースされたCDは130枚にのぼり、いずれのアルバムも世界中の幅広い層の聴衆の熱い支持をえている。ロシア、東欧、北欧、近代フランス、スペイン、南米音楽にも、優れたレコーディングをのこし、名盤として評価されている。最新CD「サムライ」(エイベックス・クラシックス)は『レコード芸術誌』の特選盤に選ばれる。
 
 著書に「ピアニストの時間」(みすず書房)、「星にとどく樹」「ひまわりの海」(求龍堂刊)、「左手のコンチェルト」(佼成出版社刊)、「ソリストの思考術・舘野泉の生きる力」(六耀社刊)、「命の響~左手のピアニスト、勇気をあたえる23の言葉」(集英社刊」などがある。楽譜「左手のピアノシリーズ」(音楽之友社)を出版。南相馬市民文化会館(福島県)名誉館長、日本シベリウス協会名誉顧問、日本セヴラック協会顧問、サン=フェリクス=ロウラゲ(ラングドック)名誉市民。日本の、クラシックのアーティストとしては初めての、そして最も長続きしている「ファンクラブ」を各地に持つ。