※この文章は「RAINBOW」購入者特典サイト(2002年12月)にて掲載されたものです。


●はじめに


今回このアルバム『RAINBOW』という作品をまた違った角度から感じてもらいながら、普段雑誌のインタビュー等ではそんなに掘り込まれない、レコーディングワークにおける浜崎あゆみを感じてもらおうと思い、その表現の場をどのようにしようかと考えた中、実際にご購入いただいたみなさまに、この作品とともに触れてもらうのが最も伝わるのだろうと考え、このスペシャルサイトにて記してみました。制作ディレクターである私は今までこのような形で何かを述べたりすることはなかったのですが、今作で感じたこと、そのいくつかはユーザーのみなさんに伝えたいという気持ちが非常に高まるものがあり、これを機に述べてみようと思ったわけです。
私が今作(シングル楽曲も含め)の作品づくりの中で最も感じたのは、今まで以上にayuのアイディアによってチャレンジしてみた数々のトライが、楽曲を驚くべき力を持つ方向へと導き、光り始めていったという、そんな場面に最も出会わせてくれたものだったという事実です。具体的な例は全曲解説で見てもらうこととして、これはまさにアーティスト浜崎あゆみという一面はもちろんのことクリエーターとしての側面もさらに洗練され、作品たちに投じられたという現れだと思っています。そしてもうひとつ、アルバム曲レコーディング前半での出来事。いつものようにヴォーカルレコーディングの瞬間まで吟味する詞がようやく完成し、出来上がった歌詞を見たところナント英詞が!!
勢い余った私の質問に対してayu本人は「もうそろそろいいんじゃないかなあ」と普段の様子とは特に変わらず。しかしながらそこには、"浜崎あゆみのメッセージは国内マーケットを超越し世界に発信している、もうすでにネクストステップに進み始めているという印象を感じました。
いつもに比べて、早い段階で決定したタイトル“RAINBOW”。もしかしたらayuの中ではすでに、このような作品が生まれていくストーリーが構築されていたのかもしれません。
そんな意気込みも含めてayu本人の力量と気合いが強く投じられた大傑作『RAINBOW』を聴き親しんでいただけることを祈っています。

エイベックス(株)担当制作ディレクター 冨田恭通


track00
RAINBOW


アルバムに収録するためにインスト曲の提案に関して、D・A・I氏より早い時期にもらったもので、聴いた瞬間にこのアルバムを象徴するような優しく漂うメロディが本人にも気にとまり、収録ベースで話を進めていた。ところが、CD自体には収録せずに買ってくれた人がサイトによって聴くことができるという、今までに類を見ないこの企画も含めてayu本人&スタッフが提案し、決定したもの。

From ayu
まだ詞は付けてないんだけど、スゴク綺麗な曲だよ。


track01
「everlasting dream」


本CDのスタートを飾るインスト曲。
作曲&アレンジ担当のCMJK氏はこんな事を言っていた...「NO RAIN, NO RAINBOW ~ 雨(苦悩)がなければ、虹(美しいこと、喜び)は見えない。」ayuのイメージした曲のニュアンスに上記のような雰囲気を融合させたサウンドにより、アルバムのイントロダクションを感じさせる楽曲に完成した。本人のささやきのような淡々と流れていく言葉たちも、今作のストーリーの広がりを感じさせるものとなった。

From ayu
色んなインストがある中で、“1番歌メロっぽい”と思った作品。聴いてすぐに歌を入れたいと思った。詞が自然と浮かんできたんだよね。



track02
「WE WISH」


本編のスタートを飾る、HΛLアレンジにて仕上がったアタック感のあるアップテンポ曲。
サウンドの方向性は今までになかったアプローチを打ち出した仕上がりになっている。詞の世界も含めてしょっぱなからayuの強いメッセージを痛感させられる。サビのうらに聞こえる「WE WISH」のカウンターハーモニーなど、サウンドにおける新たなチャレンジが要所にちりばめられており、ニューアルバムでの新たなチャレンジを予感させる。

From ayu
「WE WISH」はスゴク強い曲。詞やメロディーだけじゃなくて、ヴォーカルもいつもより強めにちょっと荒い感じで歌ってる。丁寧に言葉を置く感じじゃなくてね。それが特徴かな。



track03
「Real me」


一般的には曲の肌触りとしてはR&Bテイストにくくられがちではあるが、本人の意識としてはそこに全く固執することなく作られていった。ayu自身によるアイディアや詞の力によるアプローチが楽曲全体を包み込み、それらをまさに浜崎あゆみワールドにしてしまう力を信じてこそ表現できた曲である。ここでの本人のメッセージは“woman”をテーマに、女だからどうという区別を表現する意味合いではなく、あくまで人間として、女は時として戦うもの、強いものという気持ちを提示しているもの。プロモーションビデオクリップでのキャストとともに繰り広げられるダンスは一見の価値あり。

From ayu
私はあまりコーラスを厚くしたりするタイプではないんだけど、「Real me」はその特有の世界からコーラスがバンバン入ってる感じになってる。だから、その作業にいつもより時間がかかったんだけど、出来上がった時は感動したね。



Track04
「Free & Easy」


雑誌「Free & Easy」との紙面タイアップ企画を考えていたときに、まさに雑誌撮影現場で「これで行こう!」とayuとプロデューサーで決め込んだ曲。
HΛLによる壮大でゴシックなアレンジが印象的(たくさんのアレンジャーに手掛けてもらったが、最後にオーダーし、十分な説明がない中で上がってきた彼らのヴァージョンがもっともイメージに近かった)2002年浜崎あゆみストーリーのスタートを切った楽曲。プロモーションビデオクリップでもこの曲のメッセージが吹き込まれた、スケールの大きい仕上がりになっている。

From ayu
“自由についてくる責任も抱えて生きていける人間になりたい”“そういう言葉が似合う自分になりたい”って、今ayuが感じているコトを描いた「Free & Easy」。でも、その“書きたいコト”のイメージが既に完成型に近い状態だったから、その後、詞の世界観に合わせたメロディーをつくる時はいつもより苦労したな。



track05
「Heartplace」


浜崎楽曲の中でもかなりロック色の強いミディアムテンポの名曲。
アルバム曲レコーディングのスケジュールの中ではもっとも早い時期に作業を仕上げたもの。最初のラフアレンジがかなりストレートなロックテイストのもので、これをayuの楽曲として成立するためにはいろいろと試行錯誤をくりかえした。決め手となったのは、シングル「Voyage」のアレンジでも起用した島健氏によるダイナミックなストリングスアレンジ。これに前述のサビ部分の英語詞が響きあい、浜崎あゆみなりの新たなロックフィーリングを提示することができた。

From ayu
レコーディングの状況は、いつもならヴォーカルブースに入って、一気に歌って出る!んだけど、この曲の時だけは、ちょっと歌って、出て、考えて、で、またちょっと歌って、出て、聴いてって感じで・・・。いつもとは違う流れで作業をしてたよ。そういう意味でスゴク印象的な曲だね。



track06
「Over」


ayu持ち前の哀愁漂うミディアムスロー曲。
本人によるHΛLへのアレンジオーダーも実に明確で、最初に上がったものがほぼ完成型に近いのもだった。HΛLによる切なさを包み込むような音色に、上がった詞が合体したヴォーカルRecの瞬間は、今思うと最もスムーズに進められた楽曲のひとつであることを思い出す。"It is Over"とだけ英語ワードを当てはめるセンスは、今作から初めて英詞にチャレンジとは思えないほどの効果を表している。

From ayu
詞はホテルにこもって書いたんだけど、Bメロの英語がなかなか決められなくて、そこだけずっと手こずってた。あとはサビのメロが今までにはないタイプでいきなり上がる感じだから、いろんな歌い方を試して、今の形におさまったんだよね。



track07
「HANABI」


浜崎あゆみならではの、斬新でそれでいてポップスとしての完成度も非常に高い名曲。
サウンドアプローチやエンジニアリング、そこにしっかり根を這わせた日本語によるayuの詞の世界観。本当に浜崎あゆみにしかできないものが完成した、それほどに思いの深い曲になった。UKトリップホップ/ダブサウンドのように見えて、しかし心に懐かしい唄。この曲が生まれた時点でもしかしたら国内マーケットのみの目線での表現を越えていたのかもしれないとさえ思う。

From ayu
H」の3曲をつくっている時に、“もの悲しく終わってしまう夏”を表現した曲を最後にもってきたいと思って制作したのがこの「HANABI」なんだよね。



track08
「taskinillusion」


アルバムの流れの中でいわば第2セクションへといざなう入口的インスト曲。
途中にでてくるayuのヴォイスメロディもtrack1とはまたニュアンスの違ったもので、アルバム中盤戦の展開をドラマチックに演出している。説明するほどでもないが、taskinillusionとはアレンジャーtasukuのイリュージョン!(笑)
以前も「I am...」の楽曲名について、ライブツアーの舞台監督から真顔で「taskinludeというのはどういう意味ですか?」の問いに「tasukuのインターリュード(間奏曲)でタスキンリュードです!」今回もayu自身によるtasukuへの愛情と遊びが込められたタイトル。

From ayu
ある意味このアルバムって、すごく統一感があるようでいて実は定まってない感じがあったから、真ん中あたりにその定まってない感じをあらわすモノが欲しいなと思ってた。そしたら本当にちょうどいいものが上がってきた。これはマジックだ!と思って、だからイリュージョンなんだよね(笑)。



track09
「everywhere nowhere」


冒頭からいきなり英語詞のリーディングから始まる非常にユニークなアップテンポ曲。
作曲を担当したpop氏の、何ともカテゴライズできないエキセントリックな世界もayuによってこんなたたずまいに変身した。CMJK氏によるアレンジもマッチし、シーンによって様々に変化する音色たちはこの曲の特徴そのもの。音楽的に言うといろんな意味で実験が多かった80年代のテイストが色濃く表現され、BERA氏のギタープレイも含めて、この曲に関わったブレインすべてがこのキーワードによってそれぞれのセンスを発揮させている。詞の中にあるフレーズで「記号化するのかな」という表現には、本人の哲学的見地からのメッセージが感じられる。

From ayu
この曲は私の後ろでキーボード弾いてるpopがつくってくれた曲で、初めて聴いた時から“アルバムに入れよう”って決めてた。イメージがよかったっていうか、シュールなんだけど、スゴク爽やかって感じがして、いいなって思ったんだよね。詞は最後だけ“いた”ってなってるんだけど、これは過去形にすることで前を向くコトが出来るというか、そういう感じにしたかったんだよね。



track10
「July 1st」


夏にリリースする楽曲は、いつもなぜか図って取り組むことなく、ごく自然に夏っぽい印象が強い楽曲が生まれてきている...今回はこの曲であった。
アレンジの内容ももちろんのこと、ギタリスト西川進氏による、透明感のあるプレイがよりこの曲の雰囲気を盛り上げてくれる。DJ cool-Kによるスクラッチプレイの提案は、ayuにどう感じるかと思ったところ「いいんじゃない。でももっと後半に向けて盛り上げてもいいのでは」と積極的なディレクションがなされ、よりクリエイティブなものとなった。

From ayu
詞は明るいけど、メロディーはどこかマイナーな所もあって、でも突き抜けている所もある「July 1st」。
この詞の世界観ははじめてで、私自身びっくりしたね(笑)。



track11
「Dolls」


アルバムレコーディング作業に入るころ、触れ合うことのあった北野武監督作品「Dolls」に触発されて生まれたスケールの大きいミディアム曲。楽曲自体は以前から存在していたものであったが、このような曲にしようと本人が組み立て始めたらたちまち生まれ変わり、強いインパクトを持つものに成長した一曲。曲中後半にかけて次第に拡がっていくコーラスワークはまるで花が咲いていくような、とてもドラマチックな演出になっている。

From ayu
詞は、出来上がった曲を聴いてる時、“どんどん花が咲いて、その花がいっぱい広がる絵”が浮かんきて、それで、“綺麗な花を咲かせましょう”になって、で、そこからどんどん膨らませていった。何度も繰り返す言い回し“ましょう”は、綺麗な曲に仕上げたかったのと、日本語が持っている繊細なイメージを強調したかったから。



track12
「neverending dream」


このアルバムの制作について、アレンジャー陣は過去の作品から長いつきあいのある面々に非常にタイトなスケジュールの中進められた。そんな中でも作り上げてくれた、HΛLとしてのアルバムコンセプトをイメージする一つの回答といえるインスト曲。
この曲をはじめそれぞれのアレンジャーが織りなすインストゥルメンタルサウンドはどれもアルバムの中で非常に意味を持つものになっている。このデモを聴いたときにはayuをはじめ制作スタッフはほぼ全員一致でこのポジションに曲順を決めた。

From ayu
詞は、出来上がった曲を聴いてる時、“どんどん花が咲いて、その花がいっぱい広がる絵”が浮かんきて、それで、“綺麗な花を咲かせましょう”になって、で、そこからどんどん膨らませていった。何度も繰り返す言い回し“ましょう”は、綺麗な曲に仕上げたかったのと、日本語が持っている繊細なイメージを強調したかったから。



track13
「Voyage」


浜崎あゆみの歴史において毎年必ずその年を代表する一曲というのが生まれてきたが、このVoyageは、自他共に認める2002年の代表曲といえる仕上がりになった名曲である。
一般ユーザーからの評判もさることながらクリエイターや業界関係者からの絶賛をよく耳にした。本人による楽曲イメージに対してぴったりと焦点を合わせてくれたのが、アレンジャー島健氏。ポップスとしての王道を感じるベーシックに、美しいストリングスライン、そして黒人シンガーによるゴスペル調コーラスによって曲全体を堂々としたものに成立させている。

From ayu
私とD・A・Iくんのメロがあって、私の詞とヴォーカルがあって、その先あともうちょっとプラス・アルファがないかなぁと思っているところに、島健さんのアレンジがきて。ああ、私が広げきれなかったところがものすごく広がった曲になったなぁと思った。



track14
「Close to you」


思い返してみると、歴史的に年末リリースが多かったのにもかかわらず、明確にクリスマス楽曲といえる作品がなかった事に気づき、本人とともにそのイメージをより感じさせるものにしようと仕上がった曲。
タイトスケジュールの中、アルバム制作作業としてはこれが最後の楽曲であった。実は前段階ではクリスマスイメージのものではなく、アルバム最後を飾る方向性のアレンジメントであったが、他曲の作業が進行していく中で、上記のアイディアが浮上し、一度ほぼ振り出しから再構築された。
アレンジャーは今回オリジナル楽曲初の起用である亀田誠治氏。彼のイメージする浜崎あゆみ感と、彼自身持ち前のサウンドアプローチをうまくブレンドし、アルバムの後半を締めくくるにふさわしいものになった。アルバム中、唯一本人によるハモパートがない曲で、そのかわりに本人アイディアによる重厚で壮大な聖歌隊風コーラスがフィーチャーされ、この曲をより深く印象づけるポイントとなっている。

From ayu
私なりのクリスマスソング。いや、私なりにクリスマスの感じを出したらこうなった(笑)って感じの曲がこの「Close to you」。もっと“ズバッ!”とクリスマスでもいいのかな?と思ったりもしたんだけど、私は言葉でストレートに伝えるよりも、全体の中で感じてもらうことを大事にしてきたから、その辺は変わらずにいきたいなと思ってね。



track15
「independent+」


早い段階で野球のテーマソングという話が浮上しており、正直ここまで的の絞られた内容に対する作品が本当にできるのか不安であったが、D・A・I氏によるコンセプトに非常に近いイメージの楽曲と、ayu本人の「やろうよ。これでいってみよう」という何ともいさぎのよいジャッジがあったからこそここまでの名作が生まれたと思う。
アレンジャーtasuku氏の成長著しいアレンジワークはロックというキーワードでは語り尽くせない、ayuとともに生んだ新しいサウンドのアプローチを感じる。
曲中のオーディエンスを入れるアイディアもayu本人から生まれ、マネージャーはG軍のメガホンを東京ドームまで買いに行き、Hamo Hamo Boysなるコーラス&ガナリチームを擁してレコーディング。彼らの声援と歌声?によって、さらに楽曲のテンションを高めている。
そして浜崎アルバム恒例のシークレットトラックには、すでにayuのレギュラー番組「ayu ready?」のエンディングにも流れているこの曲。
テンポは浜崎楽曲史上最ハヤのBPM166!いつものように生セッションでレコーディングされたこのヴォーカルは、Hamo Hamo Boys & Girlsと一緒に広いブースの中で歌ったテイクが採用。音にもそのスタジオで楽しげに盛り上がっている雰囲気が見えてくるようだ。
そしてこの曲CD収録の仕方も、マスタリング直前になってayuから、「シークレットっ
ていっても(表記曲に)つながってっても平気でしょう?そしたら(independentの)ハンドクラップと笑いを最後に足したらどうなるの」と、これまたキバツなアイディア。急いでそのように作ってみたら、逆にカッコイイってことになりOK。最後の締めくくりまで凝った仕上げになっている。

From ayu
何て言ったらいいのかな?「independent」をベースにしてさらに長くなった作品。“+”は聴いてのお楽しみ(謎)みたいな(笑)。『ayu ready?』のエンディングにテーマソングとして流れてるって言えば分かるかな?“+”ではHamo Hamo Boys & Girlsとしてtasuku、マネージャー2人と番長、夏来といったいつも私の側にいる人や友達にコーラスで参加してもらってます。どれが誰か分かるかな?




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