感じて楽しむ、安室奈美恵の新たなスタンダード
ステージから溢れ出す光と音とビートに合わせ、身体を揺らし、歌い、時に涙を浮かべながら、笑顔で飛び跳ねる大勢のオーディエンスたち。まさに、”感じたままに楽しんでほしい”という思いで作られた『FEEL』の世界が目の前に広がっていた、「namie amuro FEEL tour 2013 」。歌詞重視の傾向が強い邦楽シーンにおいて、披露された全28曲の多くが全編英語詞。EDM~ハウスへのアプローチも印象的な、エッジィなポップサウンド。間違いなく安室奈美恵にしか出来ない”挑戦作”を具現化したツアー「namie amuro FEEL tour 2013 」は、シンガー&エンターテイナー、安室奈美恵が作り上げた新たなスタンダードが目撃できたツアーだった。
鮮やかな衣装と光を纏い、音とビートに合わせて歌い踊る約2時間。アンコールには「FEEL」と描かれた黄色いハートも舞い降りた、そのめくるめくファンタジックなエンターテインメント・ショウの中でも、現段階の彼女の魅力が際立っていた場面がある。GUCCI×VOGUE JAPAN×NAMIE AMUROのスペシャル企画にも起用された、フューチャリスティックなエレクトロ・ナンバー「Ballerina」だ。ステージ前方からアリーナまでまっすぐ伸びた花道。その左右の上に10個のミラー、下には10個のライトを設置。そして下から照らしたライトがミラーに反射すると、花道の左右に計20本のポール状の光の柱が出現。時に色と角度を変えるその光のポールの間を、男女ダンサーを引き連れた安室奈美恵が力強く歩み、歌い踊る。ステージの上の姿がシンガーとしての安室奈美恵のすべて。そんな彼女のポリシーとシンクロする歌詞と相まった、鳥肌ものの「Ballerina」のパフォーマンス。DVDでは、カメラが花道の周囲を左右上下にぐるりと動き、照明の妙と共に、客席からは見えなかった角度からも目撃できる構成になっている。
純白のドレス姿でしっとりと歌い上げた「Let Me Let You Go」など、見どころ満載の全28曲の本編に加え、今作にはボーナストラックとして、'13年12月7日に代々木第一体育館で行なわれた、通算500回公演の達成を祝うサプライズ映像も収録されている。会場全体がコーラスを合唱する一体感満載の「Contrail」披露後、サプライズ演出としてスクリーンに映し出された、500回公演達成を祝うメッセージ。ダンサーから手渡された大きな花束に可憐な笑顔を浮かべ、「これからも良いコンサートが出来るように努力します」と、ステージで滅多に多くを語らない安室の貴重なコメントも。記念すべき日の感動をより多くの人とわかち合いたいという、ファンへの感謝の気持ちが詰まった実に嬉しいボーナストラックだ。
『FEEL』というアルバムの音楽性を鑑みれば、プロジェクション・マッピングなどの3D映像や音と同期したLEDドレスなど、ハイテクノロジーを駆使した今風の演出で貫くことも可能だったかもしれない。だが安室奈美恵は時代に翻弄されることなく、20周年を経て自然に芽生えたという、シンガーとしてリ・スタートする気持ちで今回のツアーに真摯に向き合った。この先彼女がどんな変化に挑むにせよ、これがシンガー、安室奈美恵の新たな原点なのだ。そう断言できるそのストイックで力強い姿は、アルバム『FEEL』のジャケットに込められていたメッセージと同様、言い訳ナシの真剣勝負の美しさにあふれている。
(text/早川加奈子)