SPECIAL INTERVIEW
大塚 愛×FM802 岩尾知明

岩尾
今回、愛ちゃんにインタビューさせてもらうにあたって、過去のアルバムを全部聴いてみたんです。そしたら、1枚1枚、いい意味で掴みどころがないと言いますか。しかも、クレジットを見ると2枚目からプロデュースのところに“Ai Otsuka”と入っていて、年齢的にもキャリア的にも、ソロアーティストでそういうことをする人はなかなかいないんじゃないかなって思ったんですよね。プロデュースは自分からやりたいって言ったんですか?
大塚
デビュー当時、最初はもっと、会社が用意したところを歩いていく方針なのかな?と思ってたんですけど、いい意味で会社のイメージが違ったんですよね。(松浦)社長も「お前はこの会社にまったく合ってない。でも、だから雇ったんだよ」と言ってくださって、私のやりたいようにやらせてくれたんです。しかも、私も当時はもっと尖っていて、予定されていたシングルのリリース順にも「私は絶対こっちのほうが先だと思う!」っていうのを強く押したりとか、「この曲には絶対こういうタイアップが必要なんです!」ってスタッフの人を説得したりとかしてたんです。今思うとすごく面倒くさい人だったと思うんですけど(笑)、みんな実現に向けて頑張ってくれて。スタッフに恵まれてきたなっていうのはすごく感じます。
岩尾
そうした周囲の環境があって、愛ちゃんのプロデューサー感覚が培われていったんでしょうね。
大塚
そうですね。私、本当に昔から人運が良いんです。でも、だからといって私の言うことに常にみんながイエスという感じでやってきたわけじゃなくて、「それ、違くない?」ってことも言われながら。それで私も、「そんなことない! と言いつつも、「いや、やっぱり違うかな…… って考え直したり、いろんな試行錯誤はありました。でも基本は自分が作った作品を第一に考えたいという気持ちで、そこをスタッフと共有できてたのかなとは思います。どうしたら曲が一番輝けるかを大事にしようというのは、昔も今もブレてないと思いますね。
岩尾
デビューから12年が経った今も、スタッフとのそういった関係性は変わりませんか?
大塚
結構スタッフが変わってしまってるんですよね。初期メンバーでいうと一番上のマネージャーがいるくらいで、その方も今はなかなか現場に来られないので、最初と同じ雰囲気かっていうとそれとはまた別になるんですけれども。ただ、だんだんと年下のスタッフが現れてからは、なるべく積極的に関わって意見を聞くようにして、ここだけの世界に固まらないようにしようとは思ってます。
岩尾
そういう愛ちゃんの意識はこれまでのアルバムを聴いても伝わってきました。デビューからIkomanさんと二人三脚でやられてましたけど、3枚目(『LOVE COOK』)からは打ち込みだけじゃなく、ベースとかドラムとかいろんな人が入ってきて、曲の表情も3枚目からすごく変わってるなって思うんです。それ以降、相当多くのミュージシャンとやられてますけど、そこも愛ちゃんが自ら指名してるんですか?
大塚
そうですね。でも、1枚目(『LOVE PUNCH』)とかはやっぱりデビューしたばかりということもあって、あんまり自分から生(楽器)に差し替えたいっていうのはなかったんですよ。もともとプリプロでほぼ完成に近い形にまで作り込むクセもありましたし。それに当時のディレクターの方が、作り込んだ音なのに生でやっているかのような音があまりにチープで面白いともおっしゃっていたので、それを壊したくないっていうのもあったんです。たしか「プラネタリウム」だったと思うんですけど、わたし的には本当は生に差し替えたくて、実際にレコーディングもしたんですけど、差し替えてみたら急に面白くなくなってしまって結局プリプロの打ち込みの音に戻すってこともあったりして。なので1枚目はとにかくおもちゃっぽい感じを大事にしたんです。そこから徐々に、曲の幅もさらに広げたものを聴いてほしいっていうのがあって、これはちょっと手触りを欲する曲だなと思ったものには差し替えたいという意見を伝えるようにしていきました。
岩尾
でも、生か生じゃないかというのを抜きにして、これまでのアルバムすべて、本当に一つ一つ突き詰めている印象がありましたよ。で、そんな中、今回7枚目のアルバム『LOVE TRiCKY』はSTUDIO APARTMENTの阿部(登)さんとの共作になるんですよね。これはどういうきっかけで制作することになったんですか?
大塚
そもそもの始まりはRabbitという集団に参加させていただいた時に、「ドーナツスポット」という曲で他の人が上げてきたトラックに私がメロディと歌詞をつけて返すというやり方を行ったんですけど、それがすごく面白かったんです。いつもだったら「0」から自分で作っているところが、すでに「1」があるっていう。それって選択の枠が制限されるような気もするんですけど、一方で自分のものではない「0」を借りてやってるような感じがあって、すごく面白いなぁと思って。で、それをもうちょっとやってみたい、誰かいい人いないかな?ってずっと探してた時に阿部くんに出会ったんです。
岩尾
アルバムの収録曲すべてが共作というのは初めての試みですよね。これは何て言ったらいいんだろう……企画アルバム?
大塚
わたし的には企画に近いオリジナルですね。もう、こういうアルバムを作ろうって企画的に思って制作を進めたアルバムなので。実は阿部くんとは2年ぐらい前から曲のやりとりをスタートさせてたんです。どういう形になるかはわからないけど、とりあえず作り続けて曲を溜めようってことで。
岩尾
やり方としては1曲1曲、トラックが送られてきて、それに愛ちゃんがメロディと歌詞をのせて返してっていう感じだったんですか?
大塚
そうですね。阿部くんからは最初、1分くらいの短いトラックが届くんですけど、そこに私が歌をのせて返して、じゃあ続きはこんなのはどう?っていうのが返ってきて。それを何回か繰り返すっていう感じでした。
岩尾
そういった新しい試みで作ったアルバムのタイトルが『LOVE TRiCKY』。このタイトルに込めた心は?
大塚
私、昔からトリッキーなことが好きで。デビューの頃……とくに1枚目、2枚目(『LOVE JAM』)の頃は、楽曲自体もそうなんですけど、普通なことをするのが照れくさいというか、「いい曲だね」って言われるのに抵抗があったんです。だから、今思うと自分でも「なんなんだろう、これ?」っていうような曲が多い(笑)。それに対して今回のアルバムはすごく真面目というか、「ちゃんと音楽してるな」と思ったので、それが私からすると逆にトリッキーで。だからタイトルも『LOVE TRiCKY』がいいかなと思って付けたんです。
岩尾
なるほど。では、ここからちょっと、各曲についてうかがっていきたいと思います。まずは1曲目の「タイムマシーン」。未来へワープするっていう歌詞は、お子さんに対しての想いだったりするんですか?
大塚
この楽曲は自分への応援歌なのかなって気がしますね。サビは音に合う言葉をチョイスしただけなので、そんなに意味を持たせてたわけじゃないんですけど……。でも、未来に行くには確実に一歩一歩踏まなきゃいけないんだっていうことを、歳を重ねてきた今、すごく思うようになったんです。これまではコツコツっていうのが本当に苦手で。とにかくギャンブル的に、1から100までバンッと飛ばなきゃ耐えられない性格だったんですよ。今でも苦手なことには変わりないし、できればワープしたいんですけど(笑)。でも、例えワープできた気がしても、その中には確実に一日一日を頑張ってきた中身は必ずあるっていう感じの歌なんです。
岩尾
歌詞に出てくる<夢は夢でなくなってく感覚>というフレーズが印象的だったんですが、これはどういう感覚ですか?
大塚
なんていうか、夢とかこうなりたいなっていう目標に向かって歩くんですけど、近づけば近づくほどそれはもう夢じゃなくなって、獲得しなければいけない現実になる気がするんです。例えば何か夢を描いた時、最初はそれをイメージできてないっていうか、実はあんまりわかってない状態だと思うんですよね。それが、近づいて夢じゃなくなった瞬間、夢だったものを掴もうとしている瞬間っていう意味です。
岩尾
続いて2曲目の「laugh ですが……。まず、第三者から見た愛ちゃんって、ご結婚されて、お子さんにも恵まれて、幸せの絶頂にいる人のように見えると思うんですよ。そう思ってる人からしたら、今こういう歌詞が出てくるのは意外だと感じるような内容になってますけど、どういう心境で書いたんでしょう?
大塚
プライベートに関しては別の時間軸があると思うんですけど、自分の人生や音楽活動においては、プライベートが幸せだからといって仕事も幸せになるわけではなくて、そこでは日々戦いが行われているんです。常にダメな自分もいるし、また、いいと思ってなった自分でも、時が過ぎたらその自分がイヤになったり、これではダメだと思ったり。そんな風に葛藤してくという意味では、安定なんかないんだなっていう。すごく幸せであり、すごく辛い仕事だなって思うんです。
岩尾
それは主に仕事について思うことですか?
大塚
仕事ですね。というか、自分という存在に対して。やっぱり、こうなりたいって思う自分がいればいるほど今の自分との差を感じますし、ライヴとかでも、もっとこうすればよかったっていうのが見えてくるので。そことの戦いがずっと続いている状況です。
岩尾
でも、辿り着けないから続けられるってこともありますよね。
大塚
そうですね。実は、私の人生設計としては娘に出会った時に自分の音楽活動はゴールを迎えたはずだったんです。でも、ふと思い返した時に「そういえば私、ちゃんと“この曲作れて良かったな”みたいな喜びがいまいち足りてないな。中途半端だなっていう想いがあったんですよ。それをちゃんとしなきゃと思って、今やってるんですけど。
岩尾
お子さんに恵まれて、そこで一旦達成してる感じはあったけれども、一方で音楽家としては……。
大塚
音楽家としては全然ゴールじゃないです、まだ。
岩尾
おそらくですが、プライベートのほうも人が見るほどハッピーなことばかりじゃないというか、生きていればいろいろあって当然ですよね。もちろん愛ちゃんが、自分が母親であることを積極的にアピールする必要はないけど、そういうところから自然と発せられる言葉に、同じ境遇の人たちは共感するんじゃないかなって思いました。
大塚
そうであってくれると嬉しいです。
岩尾
そして3曲目はガラリと曲調が変わる「summer lovely days」。
大塚
すごいタイトル(笑)。言葉にすればするほど、本当馬鹿馬鹿しいタイトルですよね(笑)。でもなんか、すごくベタにしたかったんですよ。自分の中のトリッキーはやっぱり英語だったので、(収録曲は)全部英語のタイトルにしようと思ってたんですけど、その中でも特にベタっていうのをこの曲で急にやりたくなって(笑)。でも、ライヴとかで「じゃあ聴いてください、『◯◯◯◯◯』です」って言う時に、これはベタすぎて恥ずかしい!(笑)
岩尾
いやいや、そんなことないでしょう(笑)。僕、愛ちゃんのセルフプロデュースの中で際立っているものの一つに、楽曲に合わせて変幻自在に変わる声っていうのがあると思うんですけど……。この楽曲も、相当低い音程もありますが、そこも愛ちゃんが歌ってるんですよね? 今までも基本コーラスの人は入れずに基本は自分の声を重ねてるってこと?
大塚
はい、全部自分です。プリプロの時にコーラスもつけてしまうので、ちゃんと音楽を学んだアレンジャーからすると、コーラスのラインがヘンらしいんですよね。「さくらんぼ」のコーラスもガタガタだねって言われます。
岩尾
でもそこが一番の魅力というか、むしろ他の誰にもできないなっていうか。その曲にちゃんと寄り添ってますもんね。
大塚
それは良かった(笑)。
岩尾
声のチョイスはどうやって決まるんですか? いろいろ試行錯誤して?
大塚
作った時にはもうできてます。曲はいつも頭の中で作るんですけど、頭に流れた時にはアレンジも歌も全部セットになってて、まるでCDが流れている感じなので、その時点でできてるんです。
岩尾
そうなんですか!? 本当に、なかなかこれだけの引き出しがある人っていないですよね。
大塚
ありがとうございます(笑)。
岩尾
では次の「affair」なんですが。これはちょっと、僕はコメントすることないんですけど……(笑)。
大塚
あははは。
岩尾
タイトルの意味も、直訳の“出来事”というよりは“情事”に近いですよね。歌詞のほうも、女性アーティストでここまで行く感じはそうそうないと思うんですけど。ただ、愛ちゃんの場合は今までもけっこう際どいのがありますもんね。
大塚
そうですね。そこは私の中ではけっこう大事なポイントというか。女が一番女でいる時、女でいる状態がピークの時って、ベッドの中だと思うんですよね。……どうなんだろう? そうでもないのかな?(笑)
岩尾
女性は頷いてると思いますよ(笑)。
大塚
私はそんな風に思っているので、歌詞にする時もあんまりエロティシズムには感じてないんです。もともと、行為も含めて、すごく愛おしい存在にしか思えてないんですよね。
岩尾
人の営みとして、そこを抜きに考えられない?
大塚
本当に素晴らしい出来事っていうか、愛情の示し方だなって思うんです。
岩尾
逆に音楽だからここまで書けるっていう表現でもありますよね。
大塚
そうですね。これを普通に言葉として人に言ったら、たぶんすごくヘンな伝わり方をする気がします。特にそういうセクシーな行為をしてる時間って言葉がないじゃないですか。その言葉のない時間を切り取って、それを音楽にして、敢えて言葉を入れる。本当はサントラでいいと思うんですけど、敢えてそうしてるのは、言葉のない時間の心の中の声が歌詞になっているようなものだと思うんです。
岩尾
なるほど。そして次の「I'm lonely」なんですが。これは……男性からするとはっきり言ってすごく面倒くさい(笑)。
大塚
あははは。そうですよね(笑)。
岩尾
自己肯定と自己否定の感情がループしてて、それが女性の不器用さだとは思うんですけど、なんでそんなにループしてるのかっていう。でもきっと女性にはこういうのがあるんでしょうね。
大塚
今回は、音楽で人の「0」を借りるのと同じように、歌詞も誰かの「0」を借りて書くっていうのをやったんです。その「0」というのは自分の置かれている状況ではなく、他の女性の話を聞いてあたかも自分がそのシチュエーションの主人公であるかのようにその人の人生を勝手に妄想して、そこでどう感じるかってことを歌詞にしてて。この「I'm lonely」は、20代後半から30代の女性と実際に話をして聞いたことをもとに、私が勝手に妄想して書いたものなんです。
岩尾
サビで歌われていることなんかは、我々男性が言葉にするのは非常にナーバスなところでもあるので、女性だから言えることだなって思いました。そこから続く「reach for the moon」。これは映画のワンシーンのような切ない曲。メッセージというよりは映像が浮かぶ感じで、聴く人がそこからそれぞれの想いを思い浮かべるような曲かなって思ったんですけど、この曲も誰かから聞いた話をもとに書いたんですか?
大塚
実はこの曲だけもともとメロディと歌詞があったんです。阿部くんからトラックが届いた時に、そういえばこんな曲があったなと思って。2004年ぐらいに書いていたものとの合わせ技です。
岩尾
そうなんですね。歌詞の中に<今なら言えるよ 目を見て一言 『好き』>ってありますけど、この意味は2004年と2015年とではだいぶ変わってくるんじゃないですか?
大塚
そうですね。当時は本当、いわゆる片思い中とか友達の延長とかだったんですけど、今はこういう状況になったせいか、それにプラスして、してはいけない恋とかも含まれて聴こえそうで。幅は広がったかなって思います。
岩尾
7曲目の「shooting starには<この手にないから きっと惹かれているんだ 手に入ってしまったらきっと違う>という歌詞が出てきますが……女性でもこう思うんですね。
大塚
あー、やっぱり! これ、男性っぽいですよね。
岩尾
これはすごい、一番印象に残ってます。
大塚
これは昔、岩井俊二さんとお食事をさせてもらったことがあって、その時に岩井さんがショーウィンドウのお話をしてくださって。ショーウィンドウの中に飾られてるものが、外から見るとすごく眩しくて、キラキラしてて、手に入れたいと思って動くんだけど、実際にそれを買ってショーウィンドウから出した瞬間、それはもう輝いてはいないんだっておっしゃったのがすごく衝撃的だったんです。その時はただただ衝撃を受けただけで済んでたんですけど、歳を重ねるとだんだんその意味がわかってきて。近づき過ぎるとダメになる関係とか。これぐらいの距離だったらすごくうまくいってたのに、近くなったら急に、なんでこんなに合わなくなっちゃったんだろう?みたいなことがわかるようになって。だから、求めているんだけど、それが叶ってしまうことは、求めている時の感情とはまた違うんだっていう切ない気持ちを書きました。
岩尾
続いては8曲目の「パラレルワールド」。パラレルワールドって普通、例えば過去に戻ってあの時こうしておけば今とは違う自分、違う世界があったかもしれないっていう意味合いがあると思うんですけど、愛ちゃんにとってはそうじゃなくて、今、常にパラレルワールドが並走してるっていうイメージですか?
大塚
そうです、そうです。なんか、最近の人は自分の思ってることや自分の世界観をみんなに知ってほしいという思いが強いような気がするんですけど、私はそれ、絶対イヤなんですよね(笑)。もちろん、音楽とか作品はすごく知ってもらいたいんですけど、みんなが知らない私を知られるのがイヤ。というか、自分だけしか知らない自分がいるのが面白いと思うんです。自分だけの自由があるもう一つのパラレルワールドにいる時の開放感というか、そういうことが愛おしいし、ハッピーじゃない?ってことを、この曲では歌ってます。
岩尾
たしかに今はSNSで何から何までつぶやいてしまうみたいなところがありますもんね。逆に、その世界にいないと安心感がなくなるみたいなところは、ちょっと異様な感じもします。
大塚
そう。みんなどうしてそんなに自分を知ってもらいたいんだろう?って、ちょっと不思議で。むしろ、自分の動きを知られるってことは、小賢しいことができなくなるのになって。みんなすごくいい人なのかなぁって思っちゃう(笑)。
岩尾
続いて9曲目の「busy lady」になりますが、この曲に出てくる女性は「I’m lonely」の女性と重なるところがありますよね。
大塚
そうですね。こっちのほうがまだ彼氏持ちなんで全然いいんですけど(笑)。でも今、同年代の女性と話していると、男性が全然結婚に踏み切ってくれないっていう話を本当によく聞くんですよ。女性の悩みとして、この“男性が結婚に踏み切ってくれない問題”がすごく多い。その時の女性の心の置きどころがなくて辛いっていうのもすごくよくわかるので、そこで心をほぐしてあげられる曲があったらいいなと思ったんです。なので、なるべく女性の思っていることに寄り添って、肩をトントンと叩いて励ませられる曲になるようにと思って作りました。
岩尾
そしてラストの「end and and ~10,000 hearts~」。この曲はNTT 西日本『スマート光ハートビートプロジェクト』という企画で、たくさんの人の心音を集めて、それをもとに楽曲を作るというものに挑戦した曲でもありますよね。「0」を借りるだけではなく、更にお題がある中での制作はどんな感じでしたか?
大塚
本当にぶっちゃけて言うと、最初は「何を言ってるんだろう?」って(笑)。どういうことをするのかチンプンカンプンなところから始まりました(笑)。でも、よくよく考えてみた時、自分が子供を産んでおいてよかったなというか、心音が泣けるぐらい温かいってことをわかってたから作れたんだなっていうところに戻って。一方で、自分が死ぬ時、それまで歩いてきた私のバトンはどう渡されるんだろう?っていうことも思ったんですけど、そこでもやっぱり娘の存在は大きいんですよね。彼女の心臓に私の何かがちょっとでも入ってるのかなって思うと、家族の繫がりっていうか、自分もそういう風に親から思われてたんだなって。それがずっと繋がってきたと思うと、終わりのその後というか、死ぬことが恐怖ではなくて、託せるものがあるという前向きな捉え方に変わったように思いました。
岩尾
子供ができたことで、もちろん未来に想いを馳せることもあるでしょうし、自分の親、そのまた親への想いの馳せ方も変わってきますよね。連綿と繋がっていくという。
大塚
特に自分は女なので、子供を産むことで女がずっと続いていくことのチェーンみたいなものを感じたことがすごく大きいですね。
岩尾
こうした10曲を、今回阿部さんとの共作という新しいトライをする中で新たに発見できたことってありますか?
大塚
いい意味で曲の色が凝り固まってないなっていうのはすごく思いましたね。自分だけで作っていると、例えばトリプルミーニングをかけてても見える色が固定されたりするんですけど、こうやって誰かと作ると、この色とこの色が混ぜ合わさったような色、なんかよくわからない表現の色の曲ができるような気がします。
岩尾
でも、今作はこれまでの愛ちゃんならではの振り幅もありつつ、10曲を通しての芯も今まで以上にありますよね。また、それらがちゃんとポップミュージックの中に収まってるというのも印象的でした。自分の好きなものを突き詰めつつ、自分のやりたいことだけやってるんですってことにはなっていないのが本当にすごい。名盤だと思います。
大塚
ありがとうございます。今回の目標は、ポップとオルタナの間を作るってことでした。
岩尾
あるいは、アンダーグラウンドとかオルタナと呼ばれるものを、愛ちゃんを通してポップなシーンへ持ってくる。それができてる作品だと思います。
大塚
なんか、自分がどっちも好きなんですよね。なんでどっちかじゃなきゃいけないんだろう?って。その真ん中が欲しい。洋服とかでも、コンサバとモードがあって、どうして間がないんだろう?って思うんですよ。コンサバだと普通過ぎてなんか面白くないし、モード過ぎても無理して着られてる感があって似合わないし。その間が欲しいなぁっていつも思ってて。音楽もそれと一緒なんですよね。
岩尾
でも本当、それは今回のアルバムでてきてると思いますよ。これだけの名盤をどう届けていくか、それは我々ラジオとかメディアの役割だと改めて肝に銘じました。最後になりますが、愛ちゃんが今の音楽シーンに対して何か思うことはありますか?
大塚
そうですね……私がデビューした頃と比べると、今は本当、まず曲が流れるチャンスが減ったように思うんですよね。そういう状況の中でどうしたらもっと伝えられるのかなと思った時、やっぱり私たちアーティストやレコード会社だけでは限界があると思うんです。なので是非、メディアのみなさんの力をお借りできればと思っています。アーティストとメディアではなく、同じ仲間として一丸となってやっていけたらいいですね。これからもよろしくお願いします。